Vol.70 2015 AUTUMN

OPAM INTERVIEW

クリムトの女神と
大分のヴィーナスとの出会い

 大分県立美術館の開館記念展第2弾として、「神々の黄昏」展が10月31日から2016年1月24日まで開催されます。
 この展覧会では、ウィーン世紀末の巨匠、グスタフ・クリムトの最高傑作のひとつ、《ヌーダ・ヴェリタス(真実の裸身)》が九州初公開されます。このクリムトの女神が大分の地で出会うのは、古代の宇佐神宮にはじまる八幡信仰や、神仏習合のもと発展した六郷満山の山岳仏教文化など、特色ある祈りの美術。なかでも、神像や仏像は信仰の対象でもある貴重な歴史的資料であり、その多様な表象が私たちの心の風景ともなって、「見えないものへの憧れ」を鮮やかに映し出すこととなります。
 今回は、東西のヴィーナスを育んだそれぞれの地を代表して、《ヌーダ・ヴェリタス(真実の裸身)》の所蔵館、オーストリア演劇博物館の館長であるトーマス・トラビッチュ氏と、本展の実行委員会委員長でもある別府大学教授 飯沼賢司氏に本展覧会のみどころを語っていただきます。

▲グスタフ・クリムト(1862-1918)の分離派期の代表作のひとつ《ヌーダ・ヴェリタス(真実の裸身)》。上部には18世紀の詩人・シラーによる一節「汝の行いと芸術で多くの人の心に喜びを満たせないならば、少なき人の真の喜びのためにそれを成せ。多くの心にそれが叶うのは悪しきことだ」と記されている。

オーストリア演劇博物館館長
Thomas TRABITSCH トーマス・トラビッチュ

オーストリア演劇博物館
(Theatermuseum)は
どのような美術館ですか?

 オーストリア演劇博物館は、展示スペースそのものとオーストリアの華麗な舞台芸術に関する展示の両方が、一つの建物で楽しめる欧州最大規模の施設です。当館は、ウィーンの中心地にあるバロック様式のロプコヴィッツ宮殿内にあります。ミュージアムとしては、1991年に開館し、2016年には25周年を迎えることとなっています。ちなみに、ロプコヴィッツ宮殿は、ベートーヴェンの著名な作品が初演された歴史ある場所でもあります。

所蔵されているクリムトの
「ヌーダ・ヴェリタス」という作品について教えてください。

 ≪ヌーダ・ヴェリタス(真実の裸身)≫(1899年)は、グスタフ・クリムトが19世紀末に制作した代表作の一つで、クリムト自身が探求する芸術の≪真実(真理)≫が宣言されている作品となっています。作品とその制作背景には、当時の社会情勢が反映されており、鏡を描くことで時代の影響を受けながら形成された自身の考え方へ観る者の意識を集める一方で、保守的な当時のアート・シーンや世間の風潮に対する挑戦的な思いも込められています。

大分の仏像などと出会う本展で
クリムトの女神の見どころはどこにあると思いますか?

 私は仏教美術を専門としていないため、「ヌーダ・ヴェリタス」の、特に鏡の作用の中にこの難しい問いの答えを見いだしてみたいと思います。鏡は非常に直接的な方法で観客と「裸の」真実を対峙させます。それは観る者にとって、受け入れがたいことかもしれませんが、観る者の心中にある、ある種の抑圧を解き放ち、目を開かせ、時代に流されて生きることに甘んじている自分を省みて、自分と社会にとって本当に大事なことは何なのかを改めて考えさせる、そうした作用をもっているのではないかと思うのです。

大分県立美術館(OPAM)の印象は?

 私は大分を初めて訪れたときのことを忘れることはないでしょう。まだ開館前でOPAMの建設予定地を見学させていただきました。そして、このほどOPAMが完成したことに深く感銘を受けると同時に、「ヌーダ・ヴェリタス」が欧州以外の場所、この素晴らしい美術館で展示されることを大変光栄に思います。

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