Vol.57 2012 SUMMER

『足ながおじさん』は
大人のラブストーリーを描いた作品だったんですね。

ミュージカル・ロマンス
『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより〜』
公式サイトにて、坂本真綾が歌う劇中歌♪「幸せの秘密」配信中
http://www.tohostage.com/ashinaga/index.html

INTERVIEW ジルーシャ役 坂本 真綾 Maaya Sakamoto

 声優、歌手、執筆と、多岐にわたって活動をしている坂本真綾さん。今回のミュージカルでは、主人公のジルーシャを演じます。子どもの頃からミュージカルが大好きだったという坂本さんに、本公演の魅力をお伺いしました。

ー まずは坂本さんご自身のことについてお伺いしたいと思います。8歳から子役としてデビューなさって、24年間ずっと演技のお仕事をなさっていますが、続けられる理由はどこにあるのでしょうか?

 好きだから続けられたのだと思います。子どもの頃は、演技の他に夢中になれるものがありませんでした。みんながサッカーやピアノなど、習い事をしているのと同じように、自分にとっての習い事は演技をするということだったんです。

 けれど、大学を卒業した頃に、好きなことを仕事にしたことで苦悩を感じた時期がありました。好きなだけではできないこととか、好きだからこそ難しいことを感じました。学生という擁護された立場から、本当に社会人になって「この仕事をやっていくんだ」って思って意識が変わってきたんです。ですが、やはり好きではじめたことですから、悩んでも踏みとどまって来れたのだと思います。

ー そうした長いキャリアの中で、声優、歌手、舞台女優と、さまざまな活動を行っていらっしゃいますが、坂本さんにとってミュージカルの魅力とはどんなところにありますか?

 父が舞台照明家をしていたので、小さな頃からよく舞台を見に行っていました。その中でも、ミュージカルは特に好きでした。台詞だけのお芝居よりものめり込みやすく、集中して最後まで見れる感じがしていたんです。華やかさにも魅力を感じていました。

 大人になると、歌詞や音楽の中に主人公や、登場人物たちの気持ちが表現されていることに気付きました。それが体感できたときに、ぞくっとするほど気持ちいい!それがミュージカルだと思います。

ー 今回の舞台は『足ながおじさん』を原作にしていますが、原作をお読みになったご経験はありますか?

 小学校の頃に読んだことがあります。当時は児童文学的な、子ども向けの作品だと思って読んでいて、「主人公は子ども」というイメージがあったんですね。けれど、主人公のジルーシャを演じるにあたって原作を読み返してみると、実は成熟しつつある大人の女性なのだということに気付きました。『足ながおじさん』は大人のラブストーリーを描いた作品だったんですね。

ー 坂本さんの演じるジルーシャの魅力はどんなところにあるのでしょうか?

 ユーモアやウィットでどんなことでも乗り越えて行ける力を持っているところです。だけど、その力は生まれつきのものではなくて自分で身に付けたものだと感じます。彼女は孤児院で過ごしていた大変な時期があるのですが、その時期に身につけたものではないかと思うんです。本当に傷ついたり、怒ったり、ネガティブな感情を抱く瞬間もあるのに、それを受け止めた上で気持ちを立て直して行く。物語を追っていると、何度もそうした場面が出てきます。

 普通の人が天性の明るさを持っている人を見ると「なかなかそんなことできないよ」と感じてしまうことがあると思うんです。けれど、彼女は自分でポジティブになる方法を見つけた人に見えます。だから、ジルーシャを見ていると「自分もそうなれるかもしれない」「なってみたい」という気持ちにさせてくれるんです。それが彼女の魅力だと思います。

ー そんな前向きなジルーシャを演じられる坂本さんご自身は、ポジティブな方ですか?!

 わたしはとてもネガティブです(笑)でも、最後の最後にどこかで意地のようなポジティブさがあるのかもしれません。いろいろなことを思い悩んでしまうことも多いので、ジルーシャはすごいなと思います。

ー 先ほど、お仕事について悩んだ時期があったとおっしゃっていましたが、坂本さんはそれを乗り越えて来たのですよね?どうやって乗り越えられたのですか?

 失敗したり、上手くいっていないときに諦めてしまったら、ダメだったという結論を出して終わってしまいますよね?でも、ずっと続けていたらそれは途中経過で、「何者かになる課程なんだ」って考えられると思うんです。この失敗を一生引きずらないために、プロセスにしてからでないと終われない。そういう意地ですね。

ー 今回は2人芝居とお聞きしていますが、舞台の見所は?

 今回、舞台に登場するのはジルーシャと「あしながおじさん」であるジャーヴィスの2人です。原作はジルーシャの書く手紙を通して物語が展開しているので、ジャーヴィスの心情は手紙を通して想像するしかできません。けれど、この舞台では彼が始めから出ているので、ジルーシャの成長だけでなく、ジャーヴィスの成長物語にもなっているんです。

 女性から見ても、ジャーヴィスはとてもチャーミングで魅力的な男性ですし、男性から見ても、彼の成長物語を楽しむことができると思います。

 また、20世紀初頭のアメリカという時代背景もあいまって、当時の手紙を通してのやりとりがとても魅力的です。言葉の使い方や表現、女性らしい奥ゆかしさが、とても素敵で可愛らしい。『足ながおじさん』を知っているという大人の方にも、ぜひもう一度触れていただきたいと思います。

ー 『足ながおじさん』は手紙が重用なツールとなっていますが、最近はメールやネットなどが普及して、手紙を書くことが少なくなりましたよね?坂本さんは誰かに送ったりすることはありますか?

 好きでよく書きます。実は今朝も手紙を書いてから来ました。何かを差し上げるときに、一言添えたいなという気持ちがあるんです。後からメールで送るよりも、その方が自分も嬉しいので。

ー 定期的にお手紙を交換するような方はいらっしゃいますか?

 手紙ではないのですが子どものときからの大親友がいて、その子と交換日記をしていました。実は辞め時がわからなくて、今でも続けているんです(笑)大人になると、交換が2か月に1回くらいになってきて、全然"交換日記"ではないですし、ただの覚え書きのようになってしまっています。20年くらい続けていると、冊数もたまって来て「たまった日記をどうしようか」といつも話しています。

 けれど、普段の会話ではあえて言わない、熱い感謝のような言葉もふと書かれていたりするんです。それに、メールって消えて行くものですよね?とっておく人もいると思いますが、何かの拍子に消えてしまうものだと思いますし。

 大事なことはメールでなくて手紙で残しておきたいということもありますね。

ー ジャービス役を演じる井上さんとは初共演だそうですが、緊張はありませんか?

 先日、ジャーヴィスを演じる井上芳雄さんと初めてお会いして、一緒に頑張りましょうとお話をしました。井上さんはずっと舞台に出続けていらっしゃる大スターであることは存じ上げています。なので、そんな方の相手役ということで、緊張もありますしご迷惑をおかけしないように、頑張らなきゃなと思います。

 ミュージカルの舞台に立つのは久しぶりですし、2人芝居で長い期間の公演になるので、自分にとっては大きなチャレンジになるツアーです。

ー それでもジルーシャを演じようと思われた理由は何でしょうか?

 ひとつ目は、『足ながおじさん』という言葉を聞いたときに、ジルーシャに対していいイメージがあったことです。わたしは子どもの頃から文章を書くことが好きで、"小説家を目指している、文章の上手な女の子"というジルーシャのキャラクターに親近感を持っていたんです。だから、彼女を演じると思ったら、自然と心がやってみたいとワクワクしました。

 ふたつ目は演出を担当するジョン・ケアードさんが以前出演していたミュージカル『レ・ミゼラブル』で大変お世話になった方だということです。あの方とまた作品が作れるなら、きっと素敵なものになるだろうと考えました。ジョンは役者の魅力を上手に引き出してくれる方なので、彼のもとでまた成長させてもらえたらなぁと思います。

ー 海外の演出家の方だと、コミュニケーションの取り方の違いなどはあるのでしょうか?また、ジョン・ケアードさんはトニー賞を2度受賞されるなど、世界的に活躍なさっている方ですが、どんな演出家なのでしょうか?

 私は海外の演出家の方はジョンしか知りませんが、距離感を感じたことはあまりありません。日本人は体のジェスチャーや動きが小さいので、もしかすると感覚の違いはあるのかもしれませんが、ジョンは奥様が日本人だということもあり、それも踏まえて演出してくれているのかなとも思います。

 また、外国の演出家さんというと、肩に力が入ってしまったりすると思うのですが、ジョンはそれをほぐすのが本当に上手い人です。アイデアをパッと思いつくと、「すぐに試してみよう」と変化していく人でもあって、ついて行くのが大変なんです(笑)公演中でも変更が行われることがありますし、かと思えば、「ここはどうなの?」と聞くと、「どっちでもいい」と言われたり、任せてもらっている部分と徹底的にこだわる部分とがあります。

 役者の細かいところまでよく見ていて、その人の個性を伸ばそうとしてくれます。それが安心感や自信に繋がって、「自分はここまで」と思っているところから、ふっと次のステップに連れて行ってくれるんです。「あの人が大丈夫と言ってくれたから、思い切りやろう!」と思える、そんな演出家の方です。

ー ジョン・ケアードさんはじめ、さまざまな方との出会いが、坂本さんへの良い刺激になったり、諦めないといった気持ちに繋がっているのでしょうか?また目標にしている方などいらっしゃいますか?

 悩むようなことがあると、いろいろな方にアドバイスをもらって、支えてもらいながら乗り越えてきましたし、良い先輩に恵まれていると思います。それに、自分が経験したようなことは、そうした年上の方たちがみんな経験しているものだと思います。その人たちの背中が、「もっと先に行ければあぁなれるのかな」と想像させてくれるんです。

ー 目指されている方や、目標になさっている方はいらっしゃいますか?

 具体的にはあまり意識していないようにしています。自分は自分にしかなれないので。ただ、わたしにとってすごく影響を与えてくださった先輩は戸田恵子さんです。

 小さい頃、一緒にお仕事をたくさんしていて、毎週毎週会っていたくらいです。母と子の役が多くて、母や姉のような存在でした。普段から格好よくて、所作も性格も竹を割ったようなところがあって、演技や歌が上手で。そんな戸田さんがある時、子どものわたしに「真綾ちゃん、お芝居やめないでね」と言ってくれたんです。その言葉を忘れずに頑張ってきたところはあります。大人になってからも、戸田さんには良くしていただいて、格好良い先輩として思い浮かぶ先輩の一人です。

ー ご一緒にお仕事をなさっている方というと、作曲家の菅野よう子さんの曲を多く歌ってらっしゃいますが、今までの曲で思い入れのあるものはありますか?

 それは「自分の子どもで誰が好き?」というのと同じようなことですね。これが特にというものではないです。「最新作が最高」といつも思えるような気持ちでいたいとは考えています。なので、全部同じくらい大事です。

ー 歌詞もお書きになることがあると伺っています。旅行のご経験が歌詞に活かせれることもあるそうですが、今回は地方公演のツアーですが、楽しみなことはありますか?

 大分県には個人的に旅行に行ったことがありますが、舞台に立つことがはじめての地域もあるので、それは楽しみです。どんな風に見えるのかを客席から確認して、会場に合う舞台が作れたらと思います。

 あとは、食べ物がやはり楽しみです。わたしは大分の"とり天"が大好きで、この間も冷凍で購入したりしました(笑)

ー 最後に、今後の抱負や活動の目標についてお聞かせください。

 わたしにとって今回の公演は、長い期間の2人芝居というはじめての経験になります。わたしは今32歳ですが、8歳からお仕事をしてきて、まだこうした新しいことに出会えることを幸せに思います。また、そうした新しい挑戦しようと思った自分もよかったと感じます。

 これからも、ちょっと大変かなと思えることでも恐れずに、見つけたら喜んで飛び込んで行ける自分でいたいです。

坂本 真綾 PROFILE
坂本 真綾 Maaya Sakamoto

8歳から劇団で活躍。15歳から音楽活動を開始し、ナチュラルなボーカルと作詞力が各方面から高い評価を得る。2011年アルバム『You can't catch me』ではオリコン1位を獲得。音楽以外の分野でも、舞台(ミュージカル「レ・ミゼラブル」エポニーヌ役)、声優、執筆、ラジオパーソナリティなど、多方面で活動、日本国内のみならず世界各国のファンから支持を受けている。

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