Vol.53 2011 SUMMER

世界を舞台に演奏活動を続けている「マロ」さんが、演奏家として、 また一人の人間として、心に残った人々との出会いを語ります。

マロな世界
第九話「指揮者とオーケストラ」

 その日の演奏会を担当してもらうために呼ぶのが指揮者なんだよね。僕らオーケストラの団員と指揮者は共演者。先生として崇めたり、教えてもらったりする存在ではなく、その共演者にアイデアを聞き、僕達もアイデアを投げかけ、融合するところを見つけていくのがリハーサルというもの。もちろん、指揮者の求めるものをやってみようと思うけれど、それ以前に存在するのが、作曲家。だから指揮者が作曲家に対してどれくらい忠実であるかがまず大事で、どれくらいイメージを描けているかが求められる。その上で、オケの能力をよく知っていて、個々のメンバーの一番いいところを引き出せる能力の持ち主であること。指揮者とオケのどちらかがリードしているなんてことはなく、お互いの相乗効果でオケは動いていく。リハをパーっと通すだけの指揮者もいる。リハでうまくいかなかったところを全部記憶している。本番でそこに来た時に、違う指示が出るから修正がきちんとされる。ものすごい記憶力と、本番でどうやったらうまくできるかの経験値が高い。さらに、指揮者には、学術的なアプローチ、楽譜の読解力、指揮をするスタイルの美しさ、観客を魅了する色気もないといけない。それらすべてが揃っていて、カリスマ性のある指揮者というものが生まれるんだけどね。
 新しい指揮者が来る場合、どこの国で生まれ、どこで育ち、母国語は何か、何カ国語しゃべれて、誰に師事し、現在誰と交流があるかなど、プロフィールを調べる。それによって指揮者の創る音楽が想像できる。特に若い指揮者は、直近に誰と知り合うかによって、方向性が以前と変わる可能性が高い。要は、プロファイリングするということ。
 指揮者がリハーサル室に入ってきただけで、おーっ!という感じを受ける人がいる。そういう人は、その日のコンサートはうまくいく。リハーサル室に入って来て、最初に握手しただけで、今回の演奏会がうまくいくかどうかもわかるんだよね。手を握った瞬間に、全ての事を冷静に判断できる人かどうかが感じ取れるし、その人の持つ"気"のようなものを感じる。
 最後に、すべての才能を持ち合わせ、絶対視できる存在と言えば、それはカラヤン。カラヤンに初めて会ったのは、15歳の時。ザルツブルグへ演奏を聴きに行って、サインももらった。会った瞬間にこの人は宇宙人かと思った。人間とは違う"気"を持っているんじゃないかと。


PROFILE

NHK交響楽団第一コンサートマスター/ヴァイオリニスト
iichikoグランシアタ ジュニアオーケストラ芸術監督
篠崎史紀(しのざき・ふみのり)

1963年、北九州市小倉出身。3歳の時よりヴァイオリンを始め、高校卒業と同時にウィーン市立音楽学院に留学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサートデビューを飾り、その後ヨーロッパの主要なコンクールで数々受賞。1996年、東京ジュニアオーケストラソサエティを立ち上げ、芸術監督を務める。
1997年、34歳の若さでNHK交響楽団のコンサートマスターに就任。ソリスト、室内楽奏者、指揮者として国内外で活躍する中、2008年、iichikoジュニアオーケストラの芸術監督に就任。このコーナータイトルの「マロ」は二ックネーム。愛称の由来はそのうちご本人の口からお話しいただくことに。

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