Vol.50 2010 AUTUMN

世界を舞台に演奏活動を続けている「マロ」さんが、演奏家として、 また一人の人間として、心に残った人々との出会いを語ります。

マロな世界
第六話「海外で知った、大人と子供、日本とヨーロッパ」

 15歳の時に、ザルツブルグ(オーストリア)の音楽夏季講習会に行ったのが、初めての海外だった。15歳だから、子供としてみてくれるんだけど、演奏するにあたってはまるで大人のように対等。舞台で室内楽やソロで立つことがあっても、大人は子供だからという理由で助けてはくれないんだよね。18歳で再度留学して、先生たちと一緒に演奏をするようになると、「ここはどうやりたい?」と問われる。その時にノーアイデアだと先に進めないし、練習にならない。ちゃんとアイデアを持って、先生とディスカッションができなければ、何も出来ない人になってしまう。
 では、日本はどうかというと、ここはこうやりなさい、ああやりなさいと形を作ってくれる先生が今も多い。ヨーロッパは師弟でも、意見が求められ、対等に扱うというのが当たり前。そこが日本と大きく違う。なぜだろうと考えてみるに、日本は島国で単一民族。ヨーロッパは宗教、言語、人種が違う。紀元前からお互いに占領し合いながら国の歴史が作られてきた。だから、お互いを理解するためにはしゃべる必要がある。戦争で物事を解決することを避けるために話し合うというのが、ヨーロッパの文化。日本は幸いなことに、それが必要ではなかった。
 もちろん、そこには言葉の問題があるよね。英語をある程度話せたとしても、細かい話になると通じなくなる。音楽を伝えるのは言葉ではないと言うけれど、さらに深く知るためには、言葉を理解しないとだめだと知って僕は勉強するようになった。でも、言葉を流暢に話せたとしても、それ以上に大切なことがあることも同時に教えられた。
 ある日、僕は先生に音楽表現が大事か技術が大事かと問われたことがある。「どちらも大事」と答えたら、「それは正解だけど、その理由は?」と聞かれて僕は答えられなかった。じゃあ、解説してやろうって。「お前がドイツ語学校に通って言葉をマスターする。街で見かけた可愛いけど気のない女の子にアプローチして、いい返事がもらえたとしても、それは詐欺だ」と。比喩が少し極端ではあるけれど、要するに、心のない演奏はするなという戒め。自分が間違っていても(言葉が下手でも)、本気なら思うようにやれって。以来、これは僕の教訓になっている。人間はコミュニケーションをしようという気持ちがあれば、必ず相手は理解する。それが可能なのがパントマイムと音楽。だから、僕はスーパーで、鶏の真似をして卵を買うことも平気だったんだよ(笑)。


PROFILE

NHK交響楽団第一コンサートマスター/ヴァイオリニスト
iichikoグランシアタ ジュニアオーケストラ芸術監督
篠崎史紀(しのざき・ふみのり)

1963年、北九州市小倉出身。3歳の時よりヴァイオリンを始め、高校卒業と同時にウィーン市立音楽学院に留学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサートデビューを飾り、その後ヨーロッパの主要なコンクールで数々受賞。1996年、東京ジュニアオーケストラソサエティを立ち上げ、芸術監督を務める。
1997年、34歳の若さでNHK交響楽団のコンサートマスターに就任。ソリスト、室内楽奏者、指揮者として国内外で活躍する中、2008年、iichikoジュニアオーケストラの芸術監督に就任。このコーナータイトルの「マロ」は二ックネーム。愛称の由来はそのうちご本人の口からお話しいただくことに。

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