Vol.50 2010 AUTUMN

舞台裏の特別席

iichiko presents 大分公演 松竹大歌舞伎

2010年9月12日(日) iichiko グランシアタ


 秋恒例の「松竹大歌舞伎」大分公演が行われました。「歌舞伎十八番の内 鳴神」と「俄獅子」で、歌舞伎の妙味、華やかさを存分に味あわせてくれた中村扇雀さんには開演直前に、中村橋之助さんには終演直後にお話を伺いました。お二人とも、今年の10月、11月は大歌舞伎大阪平成中村座の出演も控えています。

中村扇雀 INTERVIEW
中村扇雀

 

―「鳴神」での扇雀さんの「雲の絶間姫(たえまひめ)」は、妖艶だと評判ですね。

 僕が出ているお芝居を見て、「歌舞伎って女優が出てる?」とおっしゃる方がいます。かといって、「女」を作り込んでいるつもりはなく、「役」になりきろうとしている。その結果、「女」に見えると言うことで、男の役である立ち役の場合も同じです。物語が進んでいくうちに、お客様自身が「絶間姫」、「鳴神上人」と同じ気持ちになっていく感じを味わっていただきたいと思います。

―橋之助さんの「鳴神上人」の魅力は?

 お芝居は相手あってのことで、チームワークみたいなものです。橋之助さんとは夫婦や恋人役など、ずっとコンビを組んでいますので、呼吸がスムーズにいく相手です。その辺りを見ていただきたいですね。

―歌舞伎は新しい取り組みをいろいろとやっていますが、どのように感じていますか?

 中村勘三郎のお兄さんと、お酒を飲みながら「あんなことやってみたい、こんなことやってみたい」と話してきたことが現実になる経験も一緒にできて、お客様のどんなものか?という興味が、面白い!という反応に変わっていくのが役者としても面白いですね。初めて見る方には刺激が強すぎるきらいもありますけど(笑)。歌舞伎は400年の伝統の中で、改革をずっとやり続けています。その現代版を僕らがやっているわけで、たとえば現代人にとっては、三味線の音よりも洋楽器の音を毎日耳にしているわけですよね。それらが「日本の文化の中で融合できるのか?」ということを歌舞伎でやる(試す)のは、歌舞伎の本筋を外れていることではなく、過去を振り返ると必然なのです。

―最後に、お父様の坂田藤十郎さんの言葉で大切にしていることは?

 父の師匠であった武智鉄ニさんの「離見の見(りけんのけん)」という言葉。絶えず客席に自分がいなくてはいけないという能の教えです。自分の舞台での姿が客席でも見えていなきゃいけない、これは常に大事にしています。

中村扇雀 INTERVIEW
中村橋之助

 

―「鳴神上人」は毎回、どう演じていますか?

 最初に演じたのは20年ぐらい前で、市川團十郎のお兄さまに教えていただけて、それが基本になっています。僕が子供の頃から憧れていた尾上松緑(二代目)のおじさまの「鳴神」は、ミントの香がするような素敵な鳴神で、そんな高貴の方が堕落していく。そこをリアルに演じるのもいいが、歌舞伎十八番ですから、ある程度、滑稽にやる方がいいと思っています。紙芝居的にと申しますか。世の中はデジタル化していますが、歌舞伎は永遠にアナログな面白さが根底にあっていいんじゃないでしょうか。

―近年の新しい試みをどう捉えていますか?

 一口に歌舞伎400年といいますが、小学生の漢字練習帳のように点線をなぞっているだけでは続きません。これまでの先輩方と同じように、その時代に合った作品を上演していくことが、今を生きている僕たち歌舞伎役者の使命であると思います。

―3人の息子さん達に、伝えたいことは?

 僕が教えることは少ないんですよ。国生は中村勘太郎に憧れていて、楽屋に行っては聞いています。勘太郎がまた一生懸命教えてくれる。血縁があろうとなかろうと、先輩方が指導くださる。それが歌舞伎の伝承ということなんでしょうか。両親からは、感謝と謙虚であれと耳にタコができるほど聞かされていますので、子供たちにも伝えていくつもりです。

―新しい歌舞伎座が出来るまで、どのような心持ちでいますか?

 歌舞伎座さよなら公演はイベント的にお客様がよく入ってくださいました。本拠地の歌舞伎座があればローテーションがありますが、それがない中で芝居をしていかなくてはいけない。いろんなことが生じると思いますが、新しい歌舞伎座への思いはみんな同じでしょう。

―最後に、大分の印象をお聞かせください。

 湯布院には年に2回ほど行って、家族でゆっくり過ごしています。そして、今日の大分公演もたくさんのお客様に喜んでいただけました。歌舞伎は長い、眠い、わからないと言われますが、見るとそうではないとわかっていただけます。もっと大分や地方公演をやって、出来れば湯布院から通いたいぐらいです(笑)。


profile


中村扇雀(なかむら・せんじゃく)
1960年生まれ。美しさの中にも知性を備えた女方として定評がある。今回の大分公演でも「女方が演じる女の面白さを堪能してほしい」と。父は上方歌舞伎の牽引役である坂田藤十郎。


中村橋之助(なかむら・はしのすけ)
1965年生まれ。華のある二枚目であり、最近はスケール感も加わって、ファン層も幅広い。父は女方で歌舞伎界のリーダー役・中村芝翫(しかん)。三人の息子たち、国生、宗生、宜生(よしお)も、歌舞伎役者の道を歩んでいる。

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