Vol.49 2010 SUMMER

特集 グランシアタの奇跡。
iichikoグランシアタ・ジュニアオーケストラ第1回定期演奏会。
iichikoグランシアタ、ホール付きのジュニアオーケストラが
1年に及ぶ練習の成果を披露するコンサート本番。
子どもたちの、長い1日に密着しました。

東京バレエ団、その歴史

 『ジゼル』『白鳥の湖』などの古典作品はもとより、モーリス・ベジャール、イリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤーや現代を代表する振付家の作品まで、欧米の大カンパニー同様の多彩なレパートリーを誇る東京バレエ団。マーゴ・フォンティーン、マイヤ・プリセツカヤら20世紀のプリマにはじまり、シルヴィ・ギエム、マニュエル・ルグリ、ウラジーミル・マラーホフなど世界的なダンサーともたびたび共演を重ねている、日本を代表するカンパニーだ。
 その創設は1964年。3年目の1966年には当時のソビエト政府に招かれ、モスクワ、レニングラードで公演を行い、その成功によりソビエト文化省より「チャイコフスキー記念」の名称を贈られている。
 古典作品の充実は言うまでもないが、東京バレエ団最大の特徴は、現代振付家作品への積極的な取り組みだろう。ベジャール、キリアン、ノイマイヤーの作品をレパートリーとしていることは最初に述べたとおりだが、特に注目されるのは、彼ら現代バレエの三大巨匠全員が、東京バレエ団のためのオリジナル新作を創作している点である。
 ベジャールが、1986年に振付けた『ザ・カブキ』は繰り返し再演される東京バレエ団の代表作であるのはもちろん、ベジャールにとっても代表作となった。東京バレエ団は『ボレロ』『火の鳥』『春の祭典』などのベジャール作品を数多くレパートリーとしているが、これはベジャールがこのバレエ団を信頼しているだけでなく、大いに魅了されていたからにほかならない。93年にはベジャールにとって大きなテーマである三島由紀夫をモチーフにした『M』を振付けている。
 やはり東京バレエ団にとって欠かせない振付家がイリ・キリアン。彼が自分のカンパニー以外のバレエ団に初めて振り付けたのが、94年の『パーフェクト・コンセプション』だ。ノイマイヤーは89年に『月に寄せる七つの俳句』を、2000年には『時節の色』を創作している。こうした作品は海外公演でもたびたび上演され、欧米の目の肥えたバレエファンをも唸らせている。

演技力に注目のプリマドンナ

 こうした東京バレエ団の中にあって、その個性を開花させているのが、上野水香だ。東京バレエ団への入団は2004年、すぐに『ボレロ』をはじめとするバレエ団の重要なレパートリーに主演し、カンパニーの中核メンバーとして活躍を始めた。高い身体能力を生かした現代作品や、『ドン・キホーテ』のキトリなどダイナミックなダンスを得意とする上野が、近年新しいレパートリーとして開拓したのが、『ラ・シルフィード』『ジゼル』などのロマンティック・バレエ。触れようと近づけば、はかなく消えてしまうような精霊をはかなげに踊り、新境地を見せている。
 特に『ジゼル』では、従来のジゼル像にとどまらず、「死んでもなお強い意志で恋人を守り抜く」という明確な演技が、上野ならではの解釈として印象的だった。第1幕では愛らしい村娘で、恋人のことが好きで好きでたまらない。古典を踊っても、どこかに現代的な感覚を感じさせるのも上野らしい。いじらしいだけではなく、好きだという気持ちに正直なジゼルである。平凡な恋だったはずのジゼルの初恋は、しかし恋人の本当の姿が貴族であることが判明した時点で、一気に悲劇へと転換する。その瞬間。信じられないことが起こった驚きと絶望に、上野の長い手足がこわばり、表情から生気が消える。第1幕のラストシーンまでの彼女の演技も注目だ。そして第2幕、精霊ウィリとなったジゼルの前に、彼女を裏切った恋人が現れる。この2幕は、精霊であることを重視して人間的な感情をあまりださない演技も多いが、上野は違う。精霊となろうとも、その胸には常に恋人への愛があるのだ。だからこそ、彼と再び別れることとなる幕切れは切なく、いつまでも心に残る。

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