Vol.49 2010 SUMMER

世界を舞台に演奏活動を続けている「マロ」さんが、演奏家として、 また一人の人間として、心に残った人々との出会いを語ります。

マロな世界
第五話「中学1年生で入団した、北九州のアマチュアオーケストラ」

 僕は子どもの頃からヴァイオリンを弾いていたんだけど、それは個人技をずっとやっていたわけなんだよね。ところが、中学1年生の時に、オーケストラが何かも知らないで、父親がトレーナーをやっていたこともあり、アマチュアオーケストラの北九州交響楽団に入団した。それはすごく面白かったね、自分が想像でしか知らなかった音が全部鳴るわけだから。同時に、自分一人が何かをやってもどうにもならないことも知る。たとえば、僕一人が速く弾いたとしても、オーケストラは速くなったりはしない。
 そして、オーケストラの一員になってから、シンフォニーには“作曲家の叫び”があるということを、分かったというより強く感じたんだね。そこには“作曲家が最後に目指したもの”がたしかに存在しているということを。自分一人で弾くヴァイオリンコンチェルトは、言うならばキレイなもの。優雅さ、きらびやかさ、哀愁はあっても、叫びはない。それは、今までに体験したことがないことだった。だから作曲家が何を思って曲を書いているのかがわからなくなって、ここから僕の音楽の勉強が始まる。本気になったのは21歳からなんだけど、音楽に対する好奇心があおられたのは、オーケストラとの出会いにあったことは間違いないね。
 音楽に対する影響を一番受けたのも、アマチュアオーケストラだった。いろんな人と知り合っていく中で、弾ける人と弾けない人がいることに気がつく。でも、それが悪いことではなくて、サポートすることとサポートされることを覚えていった。アマチュアだから、弾けなくても人を助けたり、助けられたり。頼ることは悪いことじゃなく、頼られることは楽しいことなんだよと。音楽に一番大事なことは、難しい曲を弾けることではなく、音楽をする、音楽を愛することなんだと本質を教えてもらった。
 アマチュアオーケストラのメンバーの凄いところは、学校の先生、お医者さんなど、いろんな職業の人がいること。たまたま楽器を扱うことに関しては自分が優れているけど、他の事では僕より優れた能力を持っている人がたくさんいて尊敬できた。彼らは、弾けるとか弾けないということより、これはいい曲だねとか、音楽が好き、音楽を愛することが大切なんだという人ばかりだった。
 僕は思春期の多感な時期にそれを知ることができた。その時に、上手に弾ける人は尊敬できて、弾けない人は自分よりダメな人間だという価値基準を持っていたら、今の自分は存在してないと思う。


PROFILE

NHK交響楽団第一コンサートマスター/ヴァイオリニスト
iichikoグランシアタ ジュニアオーケストラ芸術監督
篠崎史紀(しのざき・ふみのり)

1963年、北九州市小倉出身。3歳の時よりヴァイオリンを始め、高校卒業と同時にウィーン市立音楽学院に留学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサートデビューを飾り、その後ヨーロッパの主要なコンクールで数々受賞。1996年、東京ジュニアオーケストラソサエティを立ち上げ、芸術監督を務める。
1997年、34歳の若さでNHK交響楽団のコンサートマスターに就任。ソリスト、室内楽奏者、指揮者として国内外で活躍する中、2008年、iichikoジュニアオーケストラの芸術監督に就任。このコーナータイトルの「マロ」は二ックネーム。愛称の由来はそのうちご本人の口からお話しいただくことに。

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