Vol.46 2009 AUTUMN

世界を舞台に演奏活動を続けている「マロ」さんが、演奏家として、
また一人の人間として、心に残った人々との出会いを語ります。

マロな世界
第二話「テレビのヒーローと、駄菓子屋や市場の大人たち」

 幼稚園の年長さんから小学校1、2年生の頃、テレビでヒーローものが流行っていた。善と悪がはっきりしていて、正義とは何かを教わっていく上で、親や先生よりも影響されたのが、「仮面ライダー」をはじめとするテレビのヒーローたちだった。さらに、「巨人の星」「明日のジョー」「アタックNo.1」には、自分の信念を貫き通すということを植え付けられた気がする。
 子供が親の保護区から離れて、次に影響されるのは、テレビを中心とするメディア。今の親は、子供と接するのを怠って、テレビやゲームに子守をさせている面があるけど、当時は子供が見られる番組も限られていたし、親と話す時間もちゃんとあった。しかも、隣のおじさんやおばさんといった親以外の大人と接する時間があり、よく怒られもしたし、褒められもして、さまざまないいお手本が示されていた。
 そんな中、僕には社会勉強の場が他にもまだあった。ひとつは駄菓子屋。店に入る時にトントンとノックするから、“トントンのおばちゃん”と呼んでいた。おばちゃんの説明をよく聞きながら、限られた小遣いをどう使えば一番得かなど、真剣に考えて選んだ。きっとそこで、選ぶために必要なコミュニケーションの取り方を学んでいたのだろう。
 もうひとつは、よくお遣いに行っていた市場。小倉の旦過市場とか、一般の人が買える市場で、八百屋、肉屋、魚屋、総菜屋などがずらっと軒を連ねている。なぜ、お遣いに行くかというと、ご褒美があったからだ。スーパーマーケットは、おまけをくれないけど、市場は個人商店だから、あっちの店、こっちの店と色々くれるので、食べたいおやつが全部揃う。中でも肉屋は、そのままかじって食べられるソーセージをもらえるのが嬉しかった。子供用のソーセージで、確か絵が描いてあったな。これをもらえると「今日は、やった!」という気になったもの。
 毎日、ヴァイオリンの練習をすることは、僕にとっては、時間になったらご飯を食べるのと同じ感覚で、特別に大事なことという意識はなかったけど、お遣いに行くのは相当に気合いの入る、かなり大事なことだった。
 市場が生き生きしているのは、「新鮮で安いから見てって!」とか、声を掛けて呼び込むからだろう。会話が飛び交い、お客さんとのコミュニケーションが非常に多い。それに、市場は八百屋や魚屋など「屋」が付く店ばかりで、みんながその道の専門家。目の前で見事に魚を捌くのも見られたし、商売の真似ごともさせてくれた。そういう大人たちとふれあうことで、社会の仕組みを知ったり、挨拶の大切さやマナーを自然に覚えていった。これは、僕だけが影響されたというより、同世代の人みんなが影響されたことだと思う。


PROFILE

NHK交響楽団第一コンサートマスター/ヴァイオリニスト
iichikoグランシアタ ジュニアオーケストラ芸術監督
篠崎史紀(しのざき・ふみのり)

1963年、北九州市小倉出身。3歳の時よりヴァイオリンを始め、高校卒業と同時にウィーン市立音楽学院に留学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサートデビューを飾り、その後ヨーロッパの主要なコン クールで数々受賞。1996年、東京ジュニアオーケストラソサエティを立ち上げ、芸術監督を務める。
1997年、34歳の若さでNHK交響楽団のコンサートマスターに就任。ソリスト、室内楽奏者、指揮者として国内外で活躍する中、2008年、iichikoジュニアオーケストラの芸術監督に就任。このコーナータイトルの「マロ」は二ックネーム。愛称の由来はそのうちご本人の口からお話しいただくことに。

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