Vol.45 2009 SUMMER

孫と演じる「封印切」。心持ち若くプラス志向で、一生青春の我が舞台
松竹大歌舞伎 近松座公演
INTERVIEW 歌舞伎俳優 坂田藤十郎
現代の歌舞伎を代表する俳優である坂田藤十郎さんを、東京・歌舞伎座に尋ねました。楽屋で出迎えてくれたのは、人間国宝・藤十郎さんのおだやかで初々しい笑顔。和やかな雰囲気の中、大分公演の見どころや若さの秘訣についてお話をうかがいました。
―2005年に上方歌舞伎の始祖である「坂田藤十郎」を襲名してから4年。今年9月の大分公演は、襲名後はじめての大分入りになるのですよね。
 そうなんです。中村鴈治郎襲名(1990年)のときは全国行脚をしましたが、藤十郎襲名では全国をまわりませんでしたから。大分は縁者の方も多くいますし、とても身近な土地だと感じています。九州のお客様は温かいですよね。「よく来たね! 待ってましたよ」と、いつも熱い歓迎を受けております。
―今回はその大分に近松座として訪れる。演目は上方歌舞伎の代表作である「封印切」と「連獅子」です。「封印切」では、お孫さんの中村壱太郎さんが、藤十郎さんの相手役である遊女・梅川を初めて演じるとうかがっています。壱太郎さんは18歳(7月1日現在)でしたよね。
 はい。私も18ぐらいのときは、たくさんの先生方の下で稽古を受け、一番勉強していた頃ですから、「壱太郎もそんな年になるのか」と新鮮な思いです。調べたことはないのですが、孫を相手に「封印切」を演じるというのは、大変まれなんじゃないかな。
 ただし、珍しいからというだけで壱太郎を抜擢したわけではありません。チャンスがあれば、若いうちからお客さまの前に立つことが一番の勉強になる。芸は見ているだけではなく、演じてはじめて身につくのです。それに、私も若い人といっしょに演じることで、若さを保つことができるわけです。
―確かに藤十郎さんの舞台は、見る度に若返っている印象を受けます。
 嬉しいですねぇ。そうおっしゃっていただくのが一番の誉め言葉です。
―〈若さ〉というと、藤十郎さんが「曽根崎心中」で演じられている「お初」役もすごくお若い。今年4月には上演1300回を達成して話題になりましたが、なんと同役を56年間にもわたって続けられていて、でも舞台の上のお初はいつまでも若いままです。
  自分では何回とか、何年間とかちっとも意識しないものですから。周りから言われて、「えぇー、そんなに演ってるの!」と自分で驚いております
―「曽根崎心中」でも、もともとはお父様の二代目中村鴈治郎さんが相手役の徳兵衛を演じられていて、今は息子の中村翫雀さんが相手役を務められている。今度の「封印切」ではお孫さんと共演される。これは下の世代に良い刺激になりますね。その若さを保つ秘訣は何なのでしょうか。
 私はよく「一生青春」という言葉を使いますが、何よりも心持ちを若く、前向きに物事を考えることですね。一歩引いてしまうと、その分遅れますから。人を押しのけるという意味ではなく、常に前のめりなプラス思考が大切です。
 「曽根崎心中」でのお初役も、毎回毎回が初舞台のような気持ちなんです。そう言うと周りの人からは笑われますけど、その気持ちは本当なんです。だって、舞台上のお初にとっては、一生に一度の大事件が起こっているわけですから、演じる私もそのつもりになれちゃうんです。
 もちろん失敗や問題もあり、反省するときはしないといけないですけど、そこにこだわってはいけませんね。毎日が初演の感じです。
―藤十郎さんにとっては、過去の出来事は過去のこと。大切なのは、今、この舞台なんですね。
 そうです。決して芸に太鼓判を押さないようにしています。
 実はそこが上方歌舞伎の魅力でもあります。上方歌舞伎の和事は一人語りが基本なので、同じ舞台でもテニヲハが違ったりするんです。「封印切」では、相手役の梅川の攻め方によって、私が演じる忠兵衛の受け応えも変わってきます。この点は稽古のしようがない。その日、その舞台で毎回違うものになるのです。
 だから上方歌舞伎はリアリティがあって、現代劇のようだとよく言われますが、そこを大分の方にも楽しんでいただきたいですね。
―大分の人は、藤十郎さんの実年齢と舞台上の若さのギャップにびっくりすると思いますよ。そこが〈藤十郎マジック〉の魅力です。
 何百回演じたものでも、常に新鮮な気持ちで取り組めることが、私の取り柄ですから。
―それじゃ、歳をとるヒマがありませんね(笑)。
常に初演のような、〈一期一会〉の舞台を演じ続ける坂田藤十郎さん。歌舞伎について話す藤十郎さんの目は、希望に満ちた少年のようにキラキラと輝いていました。若々しいその舞台には、アンチエイジングの秘訣が隠されているかもしれません。
PROFILE

歌舞伎俳優 坂田藤十郎

さかた・とうじゅうろう/1931年、二代目中村鴈治郎の長男として生まれる。祖父は近代和事を完成させた初代中村鴈治郎。1941年、二代目中村扇雀を名乗り初舞台。1950年代には映画俳優として活躍。1981年に近松座を結成。代表作「曽根崎心中」の上演は1300回を超える。1990年に鴈治郎を襲名。1994年に人間国宝に認定、また同年日本芸術院会員。2003年には文化功労者受章。2005年に坂田藤十郎を襲名した。

松竹大歌舞伎 近松座公演 iichiko presents 大分公演
松竹大歌舞伎 近松座公演
iichiko presents 大分公演
日時 2009年9月12日(土) 昼の部13:00開演/夜の部17:30開演
会場 iichiko グランシアタ
出演 坂田藤十郎 ほか
演目 一、坂田藤十郎お目見得 御挨拶
二、恋飛脚大和往来
   封印切 新町井筒屋の場
三、連獅子
料金 GS席10000円、S席7000円、A席5000円、
B席3000円、 学生1500円
主催・公演に関するお問い合わせ/
(財)大分県文化スポーツ振興財団
TEL 097-533-4004
坂田藤十郎 歌舞伎の真髄を生きる 著/坂田藤十郎 発行/世界文化社
坂田藤十郎
歌舞伎の真髄を生きる
著/坂田藤十郎 発行/世界文化社
 坂田藤十郎襲名後、彼が自らの人生を語る写真満載のエッセイ。「お初とともに歩んだ人生」「役者としての覚醒」「藤十郎への人生」など、役者として、ひとりの人間としての考え、言葉が綴られている。歌舞伎俳優として歩んできた軌跡のみならず、生きることのヒントを与えてくれる一冊。
歌舞伎名作撰 恋飛脚大和往来 封印切 販売/NHKエンタープライズ 出演/中村鴈治郎、中村富十郎、中村扇雀
歌舞伎名作撰
恋飛脚大和往来 封印切
販売/NHKエンタープライズ
出演/中村鴈治郎、中村富十郎、中村扇雀
 歌舞伎の名作選より、今回の大分公演での演目「封印切」が収録されているDVD。今から10年前、1999年4月に行われた歌舞伎座での舞台を録画したもの。中村鴈治郎時代の坂田藤十郎が演じる亀屋忠兵衛に注目してみたい。相手役の遊女・梅川を演じるのは中村富十郎。

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