Vol.44 2009 SPRING

談鼎(ていだん)iichiko  グランシアタ・ジュニアオーケストラの未来を語る。「音楽を通して、大分から世界に何かを発信できれば面白い」ジュニアオーケストラ、芸術監督 篠崎史紀・ジュニアオーケストラ、音楽監督 川瀬麻由美・大分県文化スポーツ、振興財団理事長 立花旦子

幅広い世代がいるからこその、コミュニケーション。

―ジュニアオーケストラでやってみたい計画案はありますか?
マロ いろいろありますよ。海外から演奏家を呼んでコラボレーションするとか、異種分野の人と共演させたいとか。でも、それを僕は言わない方がいいんです。そういう何かの道しるべを置いていって、黙って待っていると、子ども達はやりたいことを言ってくる。初めから結果や目標を言うと、考えないようになる。それは、僕のコピーを作っているだけですから。
  さらに、東京ジュニアオーストラと同じことを大分でもしようとは思っていません。全く新しい別なものを考えていて、僕がそうなるといいなということを一つずつ道しるべとして置いていく。川瀬さんも道しるべを置いていく。そうして、誰の考えが最初に伝わるだろうかとか考えながらね。
川瀬 私自身も型にはまったものは好きじゃない。お客さんも演奏者も一緒に楽しめるものをと考えています。子ども達から、こちらが想像していないようなことが出てくるのをものすごく期待しています。
立花 募集が小学校3年生から20歳までと、年齢層が幅広いことに、不安や心配はありませんか?
マロ それがいいんです。たとえば、同じ年代、同じ能力が集まると、ひとつの言葉だけですべてが終わってしまいます。そうじゃなければ、分かる人が分かりにくい人を手助けしようとする、分からない子どもは分かる人に頼ろうとする、これが大事なことなんです。東京ジュニアオーケストラでも、練習の出来る子ができない子に教えるようになっているし、高校生が小学生に教えている。一方で、子ども達を野放しにはできないから、型にはめないで、子ども達自身に規律を作らせるような状態にも導かなきゃいけません。父兄も含めて、年齢に関係なく、子どもと大人がコミュニケート出来るような状態になればいいですね。
  僕は子ども達に先生として尊敬させるつもりはない。弟子も、東京ジュニアオーケストラも、僕のことは先生ではなく、「マロさん」と呼んでいます。相手を尊敬する気持ちは、本人がそう思っていれば自ずと敬意を表するようになる。ところが、最初から自分達は先生なんだから敬意を表せとなると、子どもに脅威を与えるだけ。僕は子ども達にメールアドレスを教えて、質問でも意見でも何でもいいから全部送ってこい、と言ってコミュニケーションをかなり取っています。音楽や演奏法、恋愛相談、勉強の仕方とか、いろいろ来ますよ。寺子屋みたいなもんですね。
川瀬 ジュニアオーケストラという団体の中でひとつの社会ができるんですけど、自分自身をいつも出せるようになってほしい。子ども達には、大いに自己アピールしてもらいたいですね。
マロ 日本人って、奥ゆかしさがいいところでもあるけど、自分のアピールが少ない。出来る人は発言するけど、出来ないと発言しない傾向にあるでしょ。その点では、東京ジュニアオーケストラって、すごく面白い。先生が「難しい部分を弾きたい人?」と言うと、「はい!」と手を挙げるから弾かせてみると、これが全然弾けないわけ。もう、ぐちゃぐちゃ(笑)。でも「明日がんばります!」とか言っている。そういうのを見ると、これが正解だなと。やる気だけはあるという子ども達が好きだし、好奇心が人間を動かすすべてのエネルギーと信じています。それは僕の親から教わったことですが。
川瀬 マロくん(幼なじみなので、川瀬さんはマロさんをこう呼ぶ)のお父さんのレッスンは、最後に必ず褒めてくれるんです。子どもって、褒めてもらいたいから頑張るんですよね。自分が教える立場になって、褒めるのは難しいんですけど、注意した分、同じように褒めることにしています。
マロ 父が言うには、人間は短所は直らないけど、長所は伸びるのが早い。だから長所を伸ばして、短所が隠せるようになるとそれは個性になると言っています。
立花 20年ぐらい前にそれを聞いていたら、我が娘達ももっと伸び伸び育ったかもしれないです(笑)。

音楽でさまざまな垣根を越えられるかもしれない。

―では、最後に、世界不況のまっ只中にありますが、音楽の可能性について。
マロ 今の状況に対して、物事をマイナスに考え過ぎている。大事なのは自分が出来ることをやること。もう少し出来ると言ってやれば、受け取る人はいる。それを受け取った人がまた出来ることをやっていけば、それこそ、輪という社会ができる。音楽は人種や宗教、利害関係なしに、もしかしたら輪を作れるかもしれない。僕はスポーツも好きで、スポーツで輪を広げていくのもありだと思うけど、勝ち負けが存在する。音楽にはそれがないから、すべての垣根を越えられるかもしれません。音楽が懸け橋になるといいですよね。
川瀬 ほんとうにそうだと思います。音楽は言葉と違って、それによって人を傷つけたりすることはない。人とのコミュニケーションの手段として、音楽は最高のものだと思っているので、音楽で輪を広げていくことができるこのチャンスを生かしたいし、関われることはラッキーだと感じています。
立花 阪神淡路大震災で、倒壊した建物の中で開かれた音楽祭が、被災者に大きな勇気を与えたと報道されました。音楽にはそういう力があると思います。これから成長していく子ども達が、音楽を通じて、世界平和というような大きな問題に限らず、身近な問題の中に、自分達が中心となって輪を作っていけるようになってほしい。ジュニアオーケストラがそのきっかけになってほしいと願っています。

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