Vol.44 2009 SPRING

談鼎(ていだん)iichiko  グランシアタ・ジュニアオーケストラの未来を語る。「音楽を通して、大分から世界に何かを発信できれば面白い」ジュニアオーケストラ、芸術監督 篠崎史紀・ジュニアオーケストラ、音楽監督 川瀬麻由美・大分県文化スポーツ、振興財団理事長 立花旦子

 昨年11月から、iichikoグランシアタ・ジュニアオーケストラの団員募集が始まりました。4月にいよいよ第1回のオーディションが行われます。開館10周年を機に掲げた、大分県文化スポーツ振興財団の「人づくり事業」のスタートを目前にし、中心となって指導、サポートをしてくださる芸術監督、音楽監督、そして理事長にジュニアオーケストラへの期待の大きさや膨らむ夢を語り合っていただきました。

ホールが子ども達のホームグラウンドになる。

ジュニアオーケストラ芸術監督

篠崎史紀
しのざき・ふみのり

NHK交響楽団第一コンサートマスター・violinist。東京ジュニアオーケストラソサエティの芸術監督も務め、「マロ」さんの愛称で知られている。

―はじめに、ジュニアオーケストラを作ることになった財団の思いを。
立花 オーケストラを作ることによって、財団のあるべき姿を県民の皆さんに見ていただきたいと考えたのです。すなわち、芸術性の高い舞台を県民の皆さんに見せるだけでなく、大分県独自の人づくりに焦点を当てた事業に力を入れていくこととし、ジュニアオーケストラの結成をその中心に据えました。
マロ 演奏会に来て、一緒に何かをやっていただけないかと声をかけられたのは、大分が初めてでした。大分は、意欲が強い県であることは確かですね。イベントとして物事を起こして、人を呼ぶのは割と簡単にできるけど、愛着を持って人を育てていくのはなかなか難しい。ホールをホームグラウンドにして、ジュニアオーケストラをやることはすごいことだし、面白いものになると思います。
川瀬 私が大分に来て感じたのは、クラシックの演奏会にお客さんが少ないこと。また年間を通じてホールに空きがあるのも不思議でした。でも、子ども達に接し、指導していくと、いろんなものを欲していて、乾いたスポンジのように吸収していってくれるので、教えがいがあると感じました。
立花 お二人ともすぐに引き受けてくださって、ありがとうございます。
マロ 本来ジュニアオーケストラは、もっと年を取ってから落ち着いてやった方がいいんだけど、それでは結果が見られない。僕のような年代から、大人として自分が持っているものをこの国を受け継ぐ世代に残して、育って行くのが見られればすごく楽しいと思ったんです。
川瀬 私自身が小さい時から合奏に参加したり、子どものためのオーケストラに入っていました。それが楽しくてヴァイオリンを続けてきたので、自分の得たものを次世代に伝えたいという気持ちがあって、ふたつ返事で引き受けました。

大分の人達は、コミュニケーション能力が高い。

ジュニアオーケストラ音楽監督

川瀬麻由美
かわせ・まゆみ

大分県立芸術文化短期大学音楽科准教授・violinist。

立花 10年前、iichikoグランシアタが開館した頃と比べると、クラシック人口は確実に増えていますが、欧米等と比較すると、コンサートが終わった後に、感動を語り合う時間をあまり持とうとしないし、そんな場所もまだ少ないです。
マロ クラシック音楽は、日本ではひとつの教育とか、ファッションとして入ってくるんです。しかし、そうではなくて、根本は宗教から成り立っていて、ある時から哲学に変わり、子どもの時から教会に行って音楽に慣れる。その先にホールというものの存在があり、そこはみんなが集まれる場所であることを知っていくんです。だから子どもの頃からホールに足を運ぶ楽しさを教えていかなくてはいけない。音楽は教養ではなくて、娯楽であり、リラクゼーションなんです。
立花 子どもが小さい時に演奏会に連れて行ったら、すやすや眠りました。
マロ それは精神的に落ち着いている証拠。マナーも子どもの頃から連れて行って、覚えていくことが大事です。会場でのマナーは、他人への思いやり。それを学べるのがジュニアオーケストラなんです。相手に対する思いやりを持たないと、一緒に曲は創れませんから。

―マロさんは、「マロプロジェクト」でも、すでに大分の演奏家達と接していますが、どんな印象を?
マロ プロもアマの人達も、大事なことが出来ているのがいいですね。音楽は、うまく演奏したり、パーフェクトに完成させていくことが必要ではあるけれど、本当に大事なのはそこじゃない。音楽は世界共通のコミュニケーションの手段で、海外で日本の曲を弾いても、相手に喜怒哀楽を与えることができる力がある。人間しか持っていないコミュニケートする能力とか、気持ちとかを大分の人達に強く感じるし、そういう素晴らしさが音楽にはあるということを知っているんですね。
川瀬 人が温かいというのも感じます。子ども達とすれ違うとよく挨拶してくれますよ。東京に住んでいると仕事場に行ってはじめて会話するようなことが日常で、他人に関心を持たなくなっていた。大分は、日常茶飯事に人とのコミュニケーションがある場所じゃないかと。その点でも、音楽が発展していく要素をたくさん備えているんじゃないでしょうか。
マロ 大分の人達は、自己崩壊しながらでの演奏でも、コミュニケートしてくるからね(笑)。
立花 自己崩壊とは?
マロ たとえば、まだ早く走れないのに、早く走って転んでしまうような状態です。でも、それがものすごく大事。自分でアクションを起こして、コンタクトを取ろうとする能力や力、気持ちが大分の人達は、けっこう強いですね。
立花 それは音楽をやっている人達に共通する特性かもしれませんね。自己崩壊とはちょっと違いますが芸術緑丘高校の卒業式には、必ずと言っていいほど涙があるのにこちらも感動させられます。
川瀬 卒業式を自分たちの手で作り上げて行くんですよ。だから達成感があって、気持ちが入ってしまう。芸術文化短期大学は、卒業式にオーケストラの演奏を入れることにしていますが、学生数が少ないので全員参加です。着物や羽織袴姿で演奏するのは、まるで明治維新のオーケストラみたいで。その影響からか、単に祝辞を聞く卒業式から、自分達で盛り上げようとする姿勢にだんだん変わってきていますね。

自ら考え、自ら望む。子ども達に、あえて回り道を。

大分県文化スポーツ振興財団理事長

立花旦子
たちばな・あさこ

弁護士、大分キャピタルロータリークラブ会員。

マロ それは、すごく大事なこと。大人は子どもに対して結果を教えてはいけない。教えるから子どもは無感動になるんです。教育も、授業も答えを詰め込むだけで、プロセスを何も教えない。それではコンピューターと同じで、人間の感情は芽生えません。子どもは知らないからこそ無謀に動けるし、むちゃもする。大人は一番近道を知っているけれど、それを教えたら、子ども達は自分で考えなくなる。
 東京でもジュニアオーケストラをやっていますが、大人はサポートするだけです。子ども達に会議をさせて、子ども達にやりたい曲を選ばせて、一緒にやりたい共演者や指揮者までも全部意見として出させる。とんでもないものも出てきますが、それに対して、正解を導き出せるヒントになるものを点々と道しるべのように大人が置いていくわけです。そうすると、子ども達は勝手に道しるべを辿りながら自分たちの演奏会を組み上げていく。自分達で考えた目標を自分達で達成したという、その感動が子ども達の心に与える影響は大きい。もちろん、出来る者と出来ない者が出てくるけど、お互いを信頼して助け合うことが出来るようになっていきます。
立花 大分のジュニアオーケストラの子ども達に、いつ頃団結力が出来るでしょうか。
マロ すぐですよ。オーケストラって、思いやりだけで成り立っているもので、自分が出来ることを見せびらかしても何も起きない。自分の出来ないことは助けてもらって、自分の出来ることは与えていくということの連続なんです。少し教育的に見えるかもしれないけれど、オーケストラは子どものための遊び場。ここで技術を磨いてプロになれというものでもないんです。人間として、みんなで遊んでいける場所になるのがこのジュニアオーケストラのいいところじゃないかと思っています。
立花 その通りですよね。子ども達に特別な責任を負わせたり、将来を拘束するようなことは何もありません。20歳までの間に、ここで先生方と直接触れ合い、音楽の楽しさを知ってもらおうというのが最大の目的ですから。
マロ そういう理想があっても、なかなか実現しにくいのも事実です。だからこそ、実現しようとしている大分は素敵な街。ものすごく恵まれている。東京ジュニアオーケストラは、練習場所、演奏会場、財源と大変な苦労をしています。ホール付きじゃないので、いろんな学校の音楽室を転々としたり、ホールも演奏会場も抽選に行かなきゃならない。でも、そのプロセスも楽しいんですけどね。
川瀬 芸術文化短期大学と財団が連携していこうという動きの中で、今、「音の泉のコンサートシリーズ」を年6回させていただいています。名前の通り、音の響きのいいホールで演奏出来ることを目標にして、学生たちは日々頑張っている。普段からそういうお付き合いをさせていただきながら、今度は子ども達を囲んで、一緒に盛り上げて行くことが出来ることに、我々も恵まれていると感じています。
マロ ジュニアオーケストラの子ども達が大人になった時に、次の世代の子ども達に同じことを伝えることができる。東京ジュニアオーケストラは、第1期生がもう大人になっていて、音楽もそれ以外のことも、自分の出来ることをやろうと、ボランティアに近い形になっている。大分でも、僕達が地元の演奏家やボランティアの方々と一緒にできるようになると思います。それに、川瀬さんがいれば、1000人いるのと一緒です。
川瀬 そこまで言っていただくと荷が重い(笑)。
マロ 彼女の場合は、幼児教育、音楽専門家のための教育、音楽愛好家のための教育、それにプラス演奏能力が抜群に優れている。全部を持っている人は実はいないので、安心していいですよ。
川瀬 やー、頭がまっ白になりました!
立花 地元の先生方にとっても、とても勉強になるいい機会ですね。
マロ 輪が広がっていくのがすごく大事なこと。今回は僕がたまたまN響だからN響のメンバーを連れてくるけど、そこにひとつの輪ができ、さらに広がっていくとなると、大分から日本中に発信するものが出来るんじゃないかと思います。
川瀬 音楽の世界は狭くて、この人とは初対面と思っても、実は同じ先生に指導を受けていたりすることがあります。子ども達が地元の講師やN響からの講師も含めて、いろんな人とコミュニケーションを取っていけば、次の世代に移った時に、また輪が広がっていく可能性がありますよね。
マロ もうひとつの特徴は、団員も、お手伝いしていただく芸短の学生さんも、これから大人になろうとしている人たちだということ。一番影響を受け易い年代です。彼らが望めば、世界中も巻き込める。僕達は、ヨーロッパでもアメリカでも、すぐにコンタクトが取れるわけですから。海外から呼ぶことも、海外に行くことにしても、パイプを作ることだけは、明日にもできる。だからこそ、子ども達に物事は望めば実現する、望まなければ何も実現しないと教えたい。要するに、発想すると、それに対して今、何をしなければならないかが見えてくるということです。そうやって、大分から世界に何かを発信できれば面白いですよね。
立花 恵まれた中でも、財団に注文はありませんか。
マロ 完成品を考えないでほしい。財団に限らず、組み上げていく途中を全員で体験していくことに喜びを感じるような大人達であってほしいですね。
立花 形を求めてはいませんので、子ども達を自由に楽しませてあげてほしいと考えています。

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