Vol.44 2009 SPRING

emo presents!世界の才能に接近

歌舞伎俳優
中村富十郎

なかむら・とみじゅうろう/1972年、五代目中村富十郎を襲名。屋号は天王寺屋。明晰な口跡、美しい動き、間のうまさで知られ、当代随一の立方、踊りは天才級と評される。若い頃から、「船弁慶」「二人椀久」など、絶賛の名舞台を数々残し、重要無形文化財保持者(人間国宝)となり、日本芸術院会員、昨年文化功労者にも顕彰された。今年6月で80歳。69歳の時に誕生した長男・大くんは、初代中村鷹之資(たかのすけ)を名乗る。5月27日には、歌舞伎座にて、傘寿記念「第9回矢車会」自主公演があり、弁慶と義経での親子共演が楽しみに待たれる。

傘寿を前に、
歌舞伎への
向かい方を語る。

大事なものは、技より心。

 久方ぶりの大分来県が「人間国宝シリーズ」への登場となった中村富十郎さん。平成22年に建て替えが決まり、歌舞伎座さよなら公演では「祝初春式三番叟」の翁で、幕開きにふさわしい舞踊を見せてくれた天王寺屋さん。歌舞伎座の楽屋におじゃまして、これからの夢や地方公演の楽しみも聞かせていただきました。

― 歌舞伎座にはたくさんの思い出がおありでしょうね。

 富十郎襲名も、「矢車会」第一回公演も歌舞伎座なんです。雰囲気も、音響もよくて、歌舞伎にとっては理想的な空間でしてね。歌舞伎が一段と高い水準になったと思います。私にとっても、歌舞伎俳優になって幸せと感じさせられる素晴らしい劇場です。

― 歌舞伎と他の分野とのコラボレーションも盛んですね。

 これからの歌舞伎のためにもよき事です。西洋音楽で言えばクラシック、歌舞伎で言えば古典という要素を元に、随分新しいものがこれまでも生まれています。温故知新というか、古きを訪ねて新しきを知ることは、ずっと続いていて、それは歌舞伎の持つ大きな財産でもあります。

― 富十郎さんも、新作に意欲的に取り組まれていますが、そのエネルギーの源は?

 俳優でも音楽家でも、本物の芸を持った方を見ると刺激されます。その感激が新しいものに向かわせるんでしょう。

― やはり、若い時から、さまざまなものをご覧になったのですか?

 歌舞伎で一番感激したのは、終戦後に見た六代目尾上菊五郎さん。今までの歌舞伎にはなかった雰囲気の踊りで、カルチャーショックを受けました。絵も優れた方達の作品を数多く観てきました。だからと言って、それを歌舞伎や踊りにどう生かしたらいいのか、すぐには分からないんですけれど、素晴らしい人間が創り出すアカデミックなものには魅力がありますよね。

― お忙しい中、よくそれだけ出かけて行かれますね。

 博多座公演の時、新聞で切り絵の第一人者宮田雅之さんの展覧会開催の記事を見て、一時間の幕間にタクシーですっ飛んで行ったこともありました。おかげで、宮田さんの未亡人と親しくしていただくようになり、中国生まれの奥様が私を中国芸術研究院に推薦してくださって、名誉教授になりました。昨年、一時間ばかり講義をしてきましたよ。

― 息子さんの鷹之資くんには、どういう教育を?

 たくさん本を読んで、日本の歴史、文化を知ってほしいし、大学にも行って歌舞伎の歴史や将来について、論文を書けるようになってほしいですね。歌舞伎を外から見ることが大切で、ただ舞台に出ているだけじゃあだめ。技よりもまず心、精神が大事なんです。

― それは、歌舞伎界の若い方にもおっしゃることですか?

 僕も、絵でも能でも最初は分からなくていいから、本物を見なさいとよく言われました。クラシックコンサートにも連れて行かれましたけれど、そりゃあ退屈します。けれども、どこかに何かがインプットされているものなんです。
 永六輔さんの著書の中に、チャップリンの言葉が載っていましてね。「音楽の良さは、音と音のあいだのなにもない間が大事」って。それは、踊りにも、歌舞伎にも、全てに通じることでしてね。音を完璧にマスターしているからこそできる間なんです。そんなことも、大人になって、ああそうかと分かる時があります。

― ところで、昨年は文化功労者になられました、おめでとうございます。

去年は三ついいことがありました。文化功労者と中国芸術研究院の名誉教授、それと東京都中央区名誉区民になったことです。僕が今住んでいるのは中央区佃、年がら年中出ている歌舞伎座も演舞場も中央区ですし。中央区でいい仕事をしてくれたってことですから、とても嬉しいことです。

― その中央区から、時々地方公演にいらっしゃるわけですが、大分にはどんな印象を?

 大分といえば、福沢諭吉でしょう。僕は慶應義塾幼稚舎に一年生まで通いましたし。もう一人、横綱双葉山です。相撲が好きで、69連勝で負けた時に父が泣いていたのを覚えています。

― 伝統芸能の素晴らしさを語っていただく「人間国宝シリーズ」という、大分の試みについて、どう感じましたか?

 僕は中国まで教えに行っていますし、海外公演も何回もさせていただいていますから、とても意義のあることと、ふたつ返事で引き受けました。

― 地方公演の楽しみは?

 やはり、その土地でなければ味わえないお料理をいただくことですね。大分は城下カレイがおいしいとか。地方の有名なお寺や神社に行くのも楽しみですけれど。

― 最後に、今年傘寿を迎えられますが、記念公演のほかに、何か計画は?

 聖徳太子ゆかりの大阪の四天王寺は「天王寺屋」の屋号にまつわる寺で、「四天王寺の鷹」というお芝居を大阪で上演したいんです。鷹之資が聖徳太子の童子の役で、僕は名もなき僧とか、押し寄せてくる鳥の親玉とか(笑)。

 開口一番は、映画音楽の素晴らしさに魅了されたお話。それは、鷹之資くんのお供で観に行った映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』でした。大好きな映画、音楽、絵画鑑賞と、天王寺屋さんはいくつになっても感激屋さんのエピソードを次々と披露してくださいました。「人間国宝シリーズ」は、身近な距離ではつらつとしたお声を耳にできる機会です。元気ももらいに参りましょう。

中村富十郎
人間国宝〜その心と技〜 第三回 中村富十郎
日時 2009年7月10日(金) 18:00開場 18:30開演
会場 iichiko 音の泉ホール
料金 全席指定4,000円 学生1,500円(当日指定)
演目 天王寺屋の勧進帳―その語りと舞―
対談 中村富十郎、葛西聖司
後援 OAB大分朝日放送・大分合同新聞社
公演に関するお問い合せ/
(財)大分県文化スポーツ振興財団 TEL097-533-4004

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