Vol.43 2009 WINTER

emo presents!世界の才能に接近

NHKエグゼクティブ・アナウンサー
葛西誠司

かさい・せいじ/東京生まれの東京育ちで、小学生の頃から劇場通い。伝統芸能の素晴らしさを伝えるために、中央大学法学部卒業後、1974年にNHK入局。苦節10年、念願叶って歌舞伎や文楽、能などの番組を担当するようになり、公私共に全国の劇場に足を運ぶ。放送するだけでなく、著書も『ことばの切っ先』『名セリフの力―日本語をきたえる76のことば―』など多数。現在は「ラジオ深夜便」「きらめき歌謡ライブ」などを担当。母方の祖父母の家が中津にあり、大分との縁も深い。来県の楽しみは、温泉とカボスをキュッと絞って飲む焼酎のお湯割りと、美味しい野菜の煮物。

伝統芸能の奥深さ、
生の舞台の魅力を
生き生きと伝える。

芸を紹介することで、
人をわくわくさせるような言葉の仕事を。

 NHKの伝統芸能番組では、必ずと言っていいほど葛西聖司アナウンサーの顔や声を見聞きする。大分にも、グランシアタ開館行事の国民文化祭の司会、歌舞伎や文楽レクチャーの講師としても、たびたび来県。今年催された「人間国宝シリーズ」の企画にも全面的にお力添えをいただき、大分に伝統芸能ファンを増やす原動力となっている。今日は伝統芸能の魅力について、お話を聞きました。

― まず、伝統芸能に興味を持ったきっかけは?

 私の家庭環境に芸能があったわけではありませんが、東京には劇場が多く、小学校の時から、一人でよく観に行っていました。歌舞伎を初めて観たのは中学の教師がくれた招待券で、劇場に通うことの面白さをその頃に知ってしまったわけです。

― NHKに入局、アナウンサーを目指したのも、伝統芸能のためですか?

 テレビで放送している歌舞伎も観ていました。スタジオ歌舞伎と言って、スタジオに花道や舞台を作って上演するんです。だけど、客席には誰もいない。がらんとしていてもったいないなあと。あそこに座って観るには、NHKの職員になればいいんだと思ったんですね(笑)。もう一つの理由が、当時、竹内三郎さんというアナウンサーが劇場中継や「芸能百選」で歌舞伎の案内をされていました。これがいい声で、品と風格があって、憧れだったんです。私も伝統芸能の番組をやって、多くの人に観てもらいたい、仲間を増やしたいという思いからです。

― しかし、すぐには番組を担当させてはもらえませんよね。

 最初の赴任地は鳥取でした。当時は歌舞伎や文楽の地方公演は少なく、東京に帰った時や大阪に出かけて観ることがとても楽しみでした。でも、それが良かった面もあります。好きなものをなかなか観ることができない地方の人の気持ちがよく分かるからです。だから、地方に行って「いい劇場でいい公演があるから行きましょう」と伝えるのが、私の夢でした。念願叶って、番組を担当するまでに10年かかりましたけど。

― 生の舞台、伝統芸能の世界にそれだけ惹かれるのはなぜですか。

 勉強しなければ楽しめない、安易な芸能ではないということです。見れば見るほど、聞けば聞くほど面白くなっていく。さらに、芸能は人生を反映しているものだから、私達が様々な人生経験を積むほど、ちょっとしたセリフのひとことが胸を打つ。年を重ねる楽しみがあるものだとも言えますね。

― 葛西さんのレクチャーは、とても分かりやすく、毎回新しい発見があると好評です。

 私は舞台を見てこんな発見をしたとか、ここは本に書かれていませんとか、客席に座っているお客様の視点で話をするからでしょう。それと、私のレクチャーでは、声を出してセリフや資料を読んでもらいます。セリフは、耳で聴くもの。ということは音ですね。目で資料を読んでもだめ。ただし、解説本は事前に読んでから舞台を見た方が分かりやすいので、早めに劇場に行き、筋書きを読んで、後は本を閉じて集中して観るというのが、私からのアドバイスです。

― 特に、これからは団塊の世代に向けての発信が大切なのでは?

 彼らは仕事に打ち込んできた方々です。この世代の人たちは、実は時間ができたら何かをやりたいという意欲に満ちているんですよね。例えば、財団のボランティアに参加していただくのもいいかもしれません。この年代が主力なんですよ。

― レクチャーで伝えたいことは?

 チケットを買って客席に座るんだから、何かお土産を持って帰ってほしい。そのためのヒントを与えるのがレクチャーです。でも、全部は話しません。自分で発見することが大切だからです。それが探せたら、「あなたの宝物になりますよ」ってこと。テーマという点では、そこに来ている人たちが何を求めているか、なぜこの作品を大分で上演するのか、なぜこの役者が今この作品をやるのかなど、今という時との関連性、土地との位置付けも大事な要素です。また、歌舞伎を例にすると、季節感、襲名、役者さんにまつわるエピソード、衣装に隠されている話や着物の柄を読み取れると分かることなど、レクチャーのテーマは無尽蔵にあります。それを考えるのが私の楽しみですね。

― 大分の受講生に対する印象は?

 別府が芸どころだったからか、三味線の音に慣れてるとか、華やかなものが好きだとか、大分の皆さんは芸をよく知っている。客席の反応もいい。開催するごとに生徒さんが増えていくのは嬉しいし、倍々と増えていく、まさに草の根運動ですね(笑)。私はマスコミの人間だけど、これはミニコミュニケーションです。

― これまで、数えきれないほど多くの人間国宝や一流の方々に会っておられますが、共通するものはありますか?

 どの人も皆、芸が一流なのは当たり前ですが、人間ができている。その裏に滑稽さ、温かさ、何とも言えない優しさと可笑しみがある。ユーモアの語源は「体液の潤い」だそうで、人間ですね。芸の達人はユーモアの達人でもあると思います。他にも伝統工芸家、大工さん、料理人など、一流と言われている人達はみんなそう。国宝だから偉いんじゃなくて、偉いから国宝なんだというのがよく分かります。それに皆さん、座談の名手です。「私はしゃべれません」と言う方に限って、ぽろっといいお話をされる。なぜなら、師匠の下でもくもくと苦労を積み重ね、人生の苦悩、苦痛を味わってらっしゃるからです。「華がある」とよく言いますよね。地面の中にいた年数が長いからこそ、地面から出てきて咲いた時に華があるんです。そういう人と同じ時代に生きていること、時を同じくした幸せを感じてほしいので、劇場に足を運んでいただきたいんです。

 ここまで一気によどみなく、時折オジさんギャグも挟みつつ、終始笑顔で葛西さんは語ってくれた。最後にインタビューのプロフェッショナルに、そのコツを問うと「相手が答えられない質問をしないこと」と明快なお答え。インターは中に入り込むこと、ビューは見ること。相手をしっかり見て、会話というキャッチボールが成立するかどうかが大切と続けた。そこに、レクチャーのリピーターと葛西ファンが増える理由があると分かった気がした。次回が待ち遠しい。

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