Vol.43 2009 WINTER

Musical instruments to read
読む楽器

アイリッシュハーブ

 アイリッシュ・ハープはヨーロッパの西端に位置するケルトの島国、アイルランドの楽器です。アイリッシュ・ハープはアイルランドの国章であり、アイルランドのコインやパスポートなどにその絵柄を見ることができます。
  ハープの起源は狩人の弓だと言われています。弓に張られた弦をはじくと音が出ること、さらに弦の長さによって音の高さが異なることを発見したのがきっかけだったのでしょう。ハープは古くからある楽器で、紀元前4000年のエジプトと紀元前3000年のメソポタミアにその原形が記録されています。
  昔のアイリッシュ・ハープは柳の木から作られ、弦はブラス弦(金属弦)が張られ、長い爪ではじいて演奏されていました。中世の時代、アイルランドのハープ奏者は吟遊詩人の語る詩に音楽で伴奏をつけ、アイルランド社会で尊敬を集める存在でした。この時代の現存する最古のアイリッシュ・ハープは、トリニティ・カレッジに保管されている十四世紀(十五世紀、または十六世紀の説もある)の『ブライアン・ボルー・ハープ』です。
  その後、アイルランド社会の変化によって、中世の吟遊詩人の音楽はすたれてしまい、ハープ奏者はアイルランド各地を放浪しながら、音楽と引き換えに裕福な領主たちから食事や宿泊を提供してもらうようになりました。この時代のハープ奏者のなかで特に有名なのは、盲目のハープ奏者ターロック・オカロラン(1670〜1738)です。オカロランは200曲以上の曲を作曲し、彼の曲は今日もアイルランドの伝統音楽家によって演奏されています。
  現在のアイリッシュ・ハープは、足で本体を支えるような形で、弦は羊などの腸から作られたガット弦の他に、現在はナイロン弦やカーボン弦など、プラスチック製が普及しています。一般的な大きさのアイリッシュ・ハープの弦の本数は34本です。木材は桜、マホガニー、ウォールナットなどで、各パーツを張り合わせて一台のハープが作られています。クラシックのグランド・ハープのようにペダルはなく、レバーを上げ下げして、半音を調節します。重厚感のあるグランド・ハープの音色に比べ、アイリッシュ・ハープは軽やかで温かみのある音色を持っています。
  アイリッシュ・ハープの一番の魅力は、その音色だと思います。ゆったりとした、物悲しいアイルランド民謡を演奏すれば、哀愁に満ちた繊細な音色を響かせますし、疾走感のある軽快なダンス曲を演奏すれば、きらめくような明るい音色を振りまきます。アイルランド音楽は、クラシックのように楽譜通りに弾くということはなく、奏者一人一人がそれぞれ好きなようにアレンジして演奏します。特にアイリッシュ・ハープはメロディだけでなく、伴奏のアレンジもするため、奏者の感性が強く発揮される楽器と言えるでしょう。また楽器を問わず、アイルランド音楽を演奏する上で、装飾音はとても重要です。装飾音はいわば音楽の彩りですが、メロディに装飾音が入ることによって、より一層の深みとアイルランドらしさが生まれます。
  アイリッシュ・ハープには、三つの力があると言われています。一つ目は『泣かせる力』、二つ目は『楽しませる力』、三つ目は『眠らせる力』です。アイリッシュ・ハープの音色は、聴く者の心を優しく包みます。

文/アイリッシュ・ハープ奏者 生山早弥香 (いくやま・さやか)
  生山早弥香 ファーストCD「スピリテッド・ハープ」発売中。2月20日(金)19時30分より、別府市 『山猫軒』にて、「アイリッシュ・ハープとフィドルの演奏会」を開催

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