Vol.40 2008 SPRING

emo presents!世界の才能に接近

人形浄瑠璃文楽大夫
竹本 住大夫

たけもと・すみだゆう/1924年、大阪市生まれ。実父は元文楽三味線の鶴澤友吉、養父は人間国宝の六代住大夫。46年、山城少掾(当時、二代豊竹古靭(こうつぼ)に 入門、四ツ橋文楽座で初舞台。81年、最高位の「切場語り」に昇格、85年七代住大夫襲名。87年、紫綬褒章。89年、文楽では初の親子2代での人間国宝に。02年日本芸術院会員、05年文化功労者、08年フランス芸術文化勲章コマンドゥール叙勲。

文楽大夫は、人間の“情”を語るのが使命。
62年やっても、満点の芸はできまへん。

登場人物を語り分け、感情の機微や情景、時間の流れまでもを一人で語り切る大夫。 どこまでも奥深いその芸には、永遠に到達点はない。

 今年、年男の84歳。大夫の史上最高齢にして、今も大夫の頂点『切場語り』として文楽のクライマックスを語る竹本住大夫さん。人間国宝シリーズの第1回めにお招きする住大夫さんを、大阪・国立文楽劇場の楽屋へ訪ね、お話をうかがいました。

― 日本を代表する伝統芸能、文楽を通して、どんなことを伝えたいですか?

 僕が伝えたいのは、人間の”情“。文楽というのは、人間の義理や人情を語るのが使命なんです。悲しいもんやって泣いてもらう、面白いもんやって笑ってもらう。これすなわち情でんな。とはいえ、ただやって情は出せるもんやおまへん。長年の修練と苦労、年がいって自然と苔が生えてくるのですなぁ。そやけど百点満点の芸というのはできるもんやおまへん、絶対できまへん。

― 住大夫さんでもですか?

絶対できまへん。22歳から62年間やってきても「うまいこといったなぁ」と思う舞台は、一度もありまへん。これからもないし、百点取れるとも思いまへん。「まぁそこそこやれた」と思うのは、お客さんが力を引き出してくれはった時。知らず知らずにひき込まれ、客席と舞台がひとつになった時は「よっしゃ! 明日もやってやろう」と勇気が出ますね。

― なるほど。さきほど長年の修練と苦労と言われましたが、住大夫さんご自身は、どんな苦労をされたのでしょうか?

 声は悪いし覚えも悪いし、若い時は、ほんまによう怒られましたで。その上、入門1年目に結婚。双方の親は大反対。せやけど好きになったもんはしゃあおまへん。翌年には子どもも生まれて、えらい貧乏しました。けど、それも励みにはなりましたなぁ。

― 苦労はしても文楽を続けてこられた。その一番の理由はなんだったのでしょう?

 僕、好きでやってまんねん。修業は厳しいし、芸は難しい。お金は儲からんし、芸道の苦労を誰より知ってる親父は「学校へ行け」いうてね。大学は出たものの、やっぱり浄瑠璃が好きでね。親の反対押し切って入ったこの道。「どんなことがあってもやめたらあかん!」と思って、歯を食いしばって努力しましたなぁ。

― 具体的には、どんな努力を?

 得心するまで稽古する。怒られても怒られても、とにかく食らいついていきました。野球に例えれば、大夫はピッチャー、三味線がキャッチャー。人形遣いが野手。ピッチャーが全力投球でリズムよく投げれば、キャッチャーもリードしよい、野手も守りやすい。そやから大夫がしっかりせなあきまへん。そのためにはやっぱり稽古しかありまへん。

― 現在は、後進を育てる立場ですが?

 これがストレスたまりまんねん(笑)。基本を覚えて素直に語れというのに、それができない。僕は、上手にやれとは言ってまへん。文楽は、教養番組じゃなく娯楽番組。新聞の三面記事を芝居にしたようなもので、お客さんは気楽に観てくれはったらええのです。でも僕らは給料貰うてまんねん。そやから、努力せなあきまへん。

― ところで体調管理はどのように?

 睡眠不足は絶対禁物。毎日8時間は寝るようにしてます。月1回は採血検査、脳のMRIは年2回。僕、気が小さくて恐がりやから、この頃は、お医者さんとも仲良うしてまんねん(笑)。

― 現在もマイクなしで切場を語る。一番大切なことは何ですか?

 腹力と腰。あとは息を上手に使う技。ことばやふし回しに気を遣った若い時と違って、今はどれだけ気持ちを込めるかが一番大事やと思うてます。”情“というのはだそうと思うてだせるもんやおまへん。僕の場合は、若い時に叱られたことや苦労したこともみな含めて財産。人生の機微を重ねてこそ情が出せるし、基本に忠実に素直にやって、最後は人間性に行き着くんやと思いまんなぁ。

― 親子2代での人間国宝ですね。

 僕は、本当に幸せなええ星のもとに生まれましてねぇ。指導者にもファンにも恵まれ、先輩たちには厳しい親切な指導をしてもらい。浄瑠璃は、難しいけど勉強すると良さがわかってくるし、それを語れることの幸せ。ええ作品に巡りあえた時は、大夫冥利に尽きますなぁ。

― 6月には、大分へ来ていただきますが、地方公演についてはどう思われますか?

 地方公演は大事です。初めて観る人もいたはれば、待っててくれたはる人もいたはります。小さな一座で行きますから、やる方にとっては勉強になります。若い時は、辛い厳しい巡業もおましたけど、巡業は楽しくて好きでしたなぁ。僕は温泉好きやから、大分は楽しみにしてまんねん。

  出番が近づき、着替えを始めると、楽屋の空気がピンと張り詰める。舞台裏。塩をまき柏手を打って、三味線と並び「盆」に座せば、いよいよ本番だ。
  語り出せば、年齢を感じさせない豊かな声量と情感たっぷりの”住大夫節“。客席がシンと静まり返り、引き込まれていく―。 

人間国宝〜その心と技〜 第1回 竹本住大夫
日時 2008年6月28日(土) 13:00開場 13:30開演
会場 iichiko 音の泉ホール
料金 全席指定 4,000円 
学生 1,500円(当日指定)
出演 竹本住大夫
野澤錦 糸
鶴澤清志郎
葛西聖 司
演目 素浄瑠璃
「伊賀越道中双六 沼津の段」
対談
助成 財団法人 地域創造
公演に関するお問い合せ/
(財)大分県文化スポーツ振興財団 TEL097-533-4004

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