Vol.40 2008 SPRING

Musical instruments to read
読む楽器

笛

 ヴァイオリンがいつ、どの楽器を先祖として誕生したものなのかは定かではない。ただ、共鳴胴、棹と指板、糸蔵の3つの部分からなり4オクターブの音域を持つ現在の形が確立されたのは、16世紀のイタリアにおいてだと言われている。当時、ヴァイオリンはミラノ近郊のクレモナやブレシアにある工房で製作されていた。そして17〜18世紀に入り、弦楽器の中でも大きな響きを持つことから、クラシック音楽での中心に据えられるようになった。
 ヴァイオリンを生み出す職人のことを「マイスター」と呼び、ヴァイオリンはつくり手である職人の名を冠す。アンドレア・アマティ、アントニオ・ストラディバリ、アレクサンドル・ガリアーノ……。名だたる巨匠のなかでも、アマティ工房のアントニオ・ストラディバリ(1644〜1737)の手によるものは、未だそれを超えるものがない最高峰の傑作とされている。彼のヴァイオリンを弾くのは”わがままなお嬢さん“を扱うようなもので、言うことを聞かない彼女に言うことを聞かすような面白さがあるという。ストラディバリは、常に製作し、名器を残すこと以外は考えない、朝から晩まで、そして死ぬまでヴァイオリンをつくり続けた生粋のマイスターだった。「鈴虫は小さいのに、どうしてあんなに大きく美しい音が出せるのだろう?」と疑問に思い、鈴虫の羽をちぎり、ヴァイオリンの胴に塗るニスに混ぜてしまったという、研究熱心さを伝える逸話も残っているほどだ。ストラディバリのヴァイオリンは今、オークションにかけられれば数億円で落札されるほどの価値がある。「ストラディバリウス」というラベルが貼られた彼の真作には、世界中から羨望の眼差しが向けられているのである。
 その価値ゆえに、値打ちあるヴァイオリンは数奇な運命を辿る。そもそもヴァイオリンは、保存しながら次の世代に伝えていかなければならない楽器だ。というのも、完成してから理想的な音が出るまでに、150年はかかるからだ。それが今演奏している人の手から、また100年後には誰かの手へと渡っていく。過去の主人の人生を背負いながら、未来永劫まで生きる……それゆえなのだろうか、ヴァイオリンの音色には、弾き手のパーソナリティーが響き合う。弾き手のアイディアを奏でる、ヴァイオリンは代弁者となる。名器ほどいい音を出すのは難しいというが、ヴァイオリンが演奏家の幅を広げ、それまでに奏でられなかった能力を発揮させることもある。まさに一心同体とでも言うのだろうか。悠久の時の中で、演奏家とヴァイオリンが宿命的にめぐり合い、音を奏でていく。それは、あまりにもロマンティックな話だと思う。

監修・撮影協力/篠崎史紀 (しのざき・ふみのり)
 NHK交響楽団第1コンサートマスター。2007、2008年と、地元大分から演奏家を公募して、プロの演奏家による室内楽の演奏指導及び演奏会を開催する「MAROプロジェクト」事業の芸術監督をつとめる。
文/編集部

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