Vol.39 2008 WINTER

特集 バレエ

マラーホフの贈り物2008(バレエ・ガラ)

バレエと言えば… 「プリンシパル」

文/バレエ評論家 守山 実花

頂点(トップ)に立つ選ばれし者

右/バレエの美しさの裏には過酷なレッスンがあることを実感でき
る、左/『エトワール デラックス』価格4,935円発売元CKエンタテイ
メント (c)Little Bear-Gaia Film-2000、(c)Photo Vincent
Tessier-Little Bear-Gaia Films-2001

 華やかなバレエの舞台をつくり上げるダンサーたち、なかでもたった一人舞台に立ちソロを踊る主役ダンサーは、磨き込まれたテクニックや演技力はもとより、舞台に登場しただけで圧倒的な存在感を放ち、観客を虜にしてしまう。パリ・オペラ座の日常を追ったドキュメンタリー映画『エトワール』でも描き出されたように、ダンサーたちは群舞、そしてソリストへと過酷な競争を繰り広げながら、頂点であるプリンシパル(パリ・オペラ座ではエトワールと呼ばれる)を目指すのだ。そしていったんプリンシパルになった者は、カンパニーの伝統を受け継ぐという凄まじいプレッシャーと責任感を感じながら、日々、己を磨き続けるのである。プリンシパル・ダンサーたちは、それぞれのカンパニーの顔であり、時には振付家にインスピレーションを与え、新しい作品を生み出す原動力ともなっていく。

アンナ・パヴロワ「とんぼ」
新書館刊「ダンスハンドブック」(本体1600円)より

 バレエ史を振り返っても、アンナ・パヴロワ、ヴァツラフ・ニジンスキーといった伝説のダンサーたちから、今でも『ジゼル』『ロミオとジュリエット』などの舞台が語り継がれ、多くのダンサーの模範となっているガリーナ・ウラノーワ、日本公演時そのあまりにダイナミックな踊りを見た観客がいっせいにどよめいたと言われるウラジーミル・ワシーリエフ、燃える炎のごとき情熱をほとばしらせながらエネルギッシュに踊るマイヤ・プリセツカヤ……ソビエト時代のダンサーたちの強烈な存在感は、今映像で観てもまったく色あせることはない。さらには、劇的な亡命の果て、新しい男性ダンサーの魅力で世界を席巻したルドルフ・ヌレエフ、亡命後アメリカで活躍、ハリウッド的なテイストを含むエンタテインメントとしての古典バレエを確立し、今もセクシーな男性の代表として活躍するミハイル・バリシニコフは、バレエという枠を超えて、世界のアート・シーンにまで多大な影響を及ぼした。

ニジンスキー『バラの精』(1911)
新書館刊 市川雅訳「ニジンスキーの手記 肉体と神」より

 現代であれば、身体表現の可能性を押し広げ、バレエという概念さえ変えてしまったシルヴィ・ギエム、観る者が思わず微笑んでしまうような、包容力のある陽性のダンスで圧倒的な人気を誇るニーナ・アナニアシヴィリ、考え抜かれた演技でヒロインの心模様を織り上げるアレッサンドラ・フェリの三大バレリーナ。ファルフ・ルジマトフの強烈なカリスマ性と獲物を狙う豹のようにしなやかな跳躍も忘れられない。あるいは、どこまでも古典の規範を遵守した踊りで、我々に美的体験をさせてくれるパリ・オペラ座のマニュエル・ルグリ。西側へと活動の場を移し、古典からドラマ性豊かな作品、さらにはコンテンポラリー作品までを踊り、高度な身体能力と両性具有的な魅力、個性溢れる舞台で魅了するウラジーミル・マラーホフ。
  彼らは、振付家だけではなく観客や同時代のダンサーを鼓舞し、バレエの歴史にその名を刻んできた存在だ。そんなダンサーたちのナマの舞台を観ることは、彼らと時空間を共有し、歴史の証人になることでもあるのだ。

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