Vol.38 2007 AUTUMN

特集 演劇

トム・プロジェクト プロデュース 『僕と彼と娘のいる場所』

スリリングな熱気を感じる舞台(ドラマ)
 ―鄭義信(チョン・ウィシン)ワールドへようこそ

 鄭義信(チョン・ウィシン)といえば、まず思い起こすのは新宿梁山泊とその舞台の数々だ。旗揚げから座付き作者としてかかわり、初期の劇団代表作のほとんどは鄭の作品。1988年の「千年の孤独」、90年の「人魚伝説」「映像都市(チネチッタ)」、92年の「愛しのメディア」などがたちまち思い浮かぶ。いずれも熱気あふれるスペクタクル。デラシネ(根無し草)となってさまよう一群の人々。そのエネルギッシュな生き様と悲哀を描いた作品は、見た者の胸に強烈な印象を与えずにはいないものだった。
 なかでも記憶に残るのは上野の夕闇迫る不忍池で上演された「人魚伝説」だ。ラストシーンで、一本の赤い糸に託された思いの切なさは、体の奥底に沈められた太古の記憶を揺さぶるような力を持っていた。「千年の孤独」もそう。猥雑で混沌とした現実と幻想の世界を描きながら、返ってくるのは切ないまでの夢と憧憬の記憶だった。
  もちろん、これは鄭の在日二世としての出自と無縁のものではない。言い換えれば「個」ではなく「族」の記憶。けれど、その後の鄭の活躍を見ていると、この「族」の記憶の世界とは別なもう一つの新たな世界が開けてきたことが分かる。鄭は1993年に流山児事務所に書き下ろした「ザ・寺山」で岸田戯曲賞を受賞。95年に新宿梁山泊を退団、フリーとなる。新たな世界が浮上してくるのは、これ以降だ。99年に文学座アトリエで上演された「冬のひまわり」を見て思ったのは、梁山泊時代には感じなかった「個」への眼差し。登場人物一人ひとりの存在の痛みが描かれはじめたことだろう。98年にNHKで放送されたスタジオドラマ「秋の蛍」も、そう。傷ついた心をやさしく包み込む作者の眼差しが、そこには終始生きていた。
  激しいスペクタクルから成熟した眼差しへ。2005年に上演されたトム・プロジェクトの「カラフト伯父さん」は、その代表作だろう。舞台は阪神大震災後10年の神戸。ストリッパーと同棲、借金取りに追われているいい加減な父親が息子のところに転がり込んでくる。反発する息子。三者三様の生き様、身勝手さ、ぶつかり合いが描かれ、そこから親子のありよう、孤独、震災の傷の深さが重層的に描き出されるという力作だった。
  その鄭の最新作がどんなものになるか。まだその詳細は分からない。が、出演者が、NHK朝のテレビ小説「天うらら」のヒロインを務めた須藤理彩、映画・テレビで活躍の和田聰宏、ベテラン石丸謙二郎の三人と聞けば、男女三人のトライアングルが生み出すスリリングな関係が描かれることは間違いないだろう。個性的な三人のぶつかり合い。そこから生み出される「鄭義信ワールド」。いったい今度はどんな新世界が展開するのだろうか。

和田聰宏

須藤理彩

石丸謙二郎

トム・プロジェクト プロデュース 僕と彼と娘のいる場所
日時 2007年12月14日(金) 19:00開演
会場 iichiko 音の泉ホール

演出
鄭義信(チョン・ウィシン)
出演 須藤理彩、和田聰宏、石丸謙二郎
料金 全席指定 4,000円 学生 2,000円(当日指定・25歳以下)
主催・お問い合せ/(財)大分県文化スポーツ振興財団 TEL097-533-4004

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