Vol.37 2007 SUMMER

特集 オペラ≪椿姫≫

オペラ・オペレッタクラシックウィーンシリーズ提供歌劇 椿姫 ウィーンの森バーデン市立劇場iichiko presents 大分公演

iichikoグランシアタにて、この秋に歌劇《椿姫》の幕が開く

オペラといえば・・・「アリア」

 今宵はオペラハウスへようこそ。 ざわめく客席。場内の灯りが消されると、沸き起こる拍手の中、指揮者が登場。そのタクトが振り下ろされ、音楽が鳴り渡り、幕が上がります。さあ、お楽しみはこれからです! でも、その前に少しだけオペラのことをおさらいしておきましょう。きっと何倍も舞台が楽しめるはずです。

音楽ライター/若林真樹

心情を歌い上げる

いよいよ2007.10.10、iichikoグランシアタでの公演に期待が高まるウィーンの森バーデン市立劇場歌劇《椿姫》より、ヴィオレッタ役ユゥリィア・コォッチィー、アルフレード役マァイケェルゥ・スパイレェス

 オペラを日本語に訳すと歌劇となることは、みなさんご存じですね。そう、オペラは何よりも「歌」を中心に繰り広げられる「劇」です。と言うと「じゃあミュージカルとはどう違うの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。確かにミュージカルも「歌」の要素が強い「劇」です。しかし、やはりオペラとの違いはあります。まずその歌い方、即ち発声方法が異なります。マイクも使わずに朗々と響き渡るオペラ(やクラシック音楽)の歌い方に対し、あらゆるジャンルの音楽を取り込むことを前提としたミュージカルは歌い方を特化していません。また、ミュージカルは歌と同程度にダンスに重きが置かれており、これもオペラとは非常に異なる点です。
 さて、オペラに話を戻しましょう。オペラの中にはいろいろなかたちの「歌」が出てきます。ヒロイン、あるいはヒーロー、その他主要な登場人物が一人でその心情を滔々と歌う、これがアリアです。
  アリアは、そのオペラの物語がヤマ場を迎える所で現れることが多く、そのために作曲家も特に腕によりをかけて音楽を作ります。ですからアリアは美しく、特徴的で耳になじみやすい旋律、あるいは非常に技巧的で凝った作りの旋律が使われます。その結果、アリアは聴き手に親しみ深い存在となる一方で、歌手にとっては全身全霊を傾けて歌い切らなければならないというプレッシャーがかかる場面でもあるのです。ところで、かつてはオペラから街のヒット曲も登場していた、と言うと意外に思われるかもしれませんが、例えば、モーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》(1786年初演)の中のアリア〈もう飛ぶまいぞ、この蝶々〉は、上演されたプラハの街の至る所で歌われたとモーツァルト自身が手紙で書いています。
 アリアはオペラの華とも言うべき存在ですが、もちろんそれだけでオペラが出来あがっている訳ではありません。複数の登場人物が各々の言い分や心情を同時に述べあう重唱や、その場に居る多くの人々が一緒に歌うことで劇的効果を高める合唱、更にそれらの間で台詞を喋るように歌うレチタティーヴォなど、さまざまなかたちの「歌」が組みあわされることで、はじめてオペラは成り立つのです。
 クラシック音楽でも純粋な器楽曲だと、やれソナタだ、やれ楽器編成がどうだ、と、つい小難しく考えてしまいがちですが、オペラは目で舞台を味わい、そしてゆっくりと「歌」に身を委ねれば十分に楽しめるのです。

オペラといえば・・・「ラブ・ストーリー」

2004.1.7 に行われたローマ・イタリア歌劇団《椿姫》の舞台より

2004.11.19に行われた ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場オペラ《ドン・ジョヴァンニ》の舞台より

名作にはつきもの

 愛する人のために自らを犠牲にする主人公。嫉妬に悶える女。甘い愛の言葉をささやく男。身分違いの恋。運命に翻弄される男女。永遠の愛を誓う二人。
  テレビ・ドラマに限らず、オペラにもラブ・ストーリーに題材を採った作品が数多くあります。ここではそうしたラブ・ストーリーの代表的な作品をご紹介します。
  どんな時代でも人は愛を語りたがるものです。古くは伝説として、小説として、また戯曲として、さまざまな形でラブ・ストーリーは伝えられてきましたが、16世紀末にイタリアで誕生したオペラにもそれはすぐ取り入れられることになります。
  現存する最古のオペラとされるペーリの《エウリディーチェ》及びカッチーニの同名の作品(共に1600年初演)、オペラというスタイルを確立したモンテヴェルディの《オルフェオ》(1607年)は、いずれも死の国から妻・エウリディーチェを取り返そうとする夫・オルフェオの物語で、これらはギリシャ神話に基づいています。実のところ、オペラはもともと古代ギリシャ演劇を復活させようとして生まれたのですが、それは必ずしも正確な歴史考証によっていなかったため、全く別の新しい芸術形式としてオペラは発展していくことになります。
  とは言え、オペラは人々に受け入れられていきます。18世紀になるとヘンデルやペルゴレージ、ラモーなどをはじめ、多くの作曲家がオペラを手がけます。そして18世紀後半にグルックを経てモーツァルトが登場します。モーツァルトのオペラは、神話劇よりもむしろ当時の現代劇とも言うべきものでした。例えば《後宮からの逃走》(1782年)は異国の後宮に囚われた恋人を救い出す話でしたし、《ドン・ジョヴァンニ》(1787年)は最後に破滅する色男(=ドン・ファン)の物語でした。また《コシ・ファン・トゥッテ》(1790年)は恋人たちが浮気するかどうかを試すという喜劇でした。
 19世紀は私たちにもなじみの深いオペラが続々と生まれました。ヴァーグナーは《トリスタンとイゾルデ》(1865年)で中世の悲恋物語を翻案し、許されない恋愛の苦悩を示しました。ヴェルディはエジプトを題材に、永遠の愛を誓いながら死んでいく男女の話として《アイーダ》(1871年)を発表し、シェイクスピアに基づき、妻の不義を疑った男の悲劇として《オテロ》(1887年)を作曲しました。また、ビゼーは《カルメン》(1875年)で魔性の女に溺れる男の破滅を鮮烈に表現しました。そして、世紀の変わり目に、プッチーニは《ボエーム》(1896年)で純愛を、《蝶々夫人》(1904年)で 裏切られた日本人女性の悲劇を共感をもって描きました。
 こうして見ると、名作と呼ばれるオペラにラブ・ストーリーはつきものであることがよく分かりますね。

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