Vol.35 2007 WINTER

特集 人形浄瑠璃 文楽 大分公演

写真提供/(財)文楽協会

文楽といえば・・・「三業一体」

 文楽は太夫・三味線・人形遣いによって作り出される総合芸術です。三つの業が対等な立場でひとつの作品を演じる「三業一体」により、文楽はドラマ性に優れた、大人のための人形芝居として独自性を持ちました。
  ここでは三業の役割と技について、各技芸員さんのお話を交えながら紹介します。

間ひとつにも太夫は全力投球

「絵本太功記・夕顔棚の段」
写真提供/(財)文楽協会

 太夫はたった一人であらゆる人物を語り分け、情景や時間の推移までも説明していきます。歳を取るほど長い場面や重い内容を語り、トップクラスがクライマックスである「切場」を語ります。
  竹本津駒大夫さんは太夫の芸に魅せられ、その道を志しました。どれだけの観客の心の中にどれほど深くドラマを説明できるか―それが太夫の力量だと、津駒大夫さんは考えています。
  息づかいひとつ、間の取り方ひとつにも、太夫の「伝える心」が宿っています。それに応ずるがごとく、観客は物語に引き込まれ、リアルタイムで事件に関わっているような気さえしてくるのです。
  「お客さんが作品にのめり込んで人物に共感してるとか、作品に入ってるな、ちゅう時は、客席から”気“がくるんですよ。この”気“をつかんだ時は『よっしゃあ!』ていう…」太夫の醍醐味が味わえる瞬間だといいます。  
  作品に込められた思いをお客さんと共有できるかどうかは「感受性の勝負」。「体力・知力・気力と全部集まって『義太夫節』という作品を作る」という心構えで、津駒大夫さんは公演に臨みます。

「義経千本桜・道行初音の旅」 写真提供/(財)文楽協会

語りを生かす三味線の判断力

 文楽の三味線は絃が太く音の低い「太棹」。これ一丁で感情の動きや場の空気感を音で表現し、人形が動くきっかけともなります。
  鶴澤清二郎さんは曾祖父と父が太夫、祖父が三味線という文楽一家に生まれました。今年41歳という若さですが、年長の太夫と組むことも多く、当然大役に当たる時も。
  「三味線弾きの場合は出世っていうか、若いうちから引っ張り上げられる可能性が高いんです。一人前になったら、今度は若い太夫を育てていく」
  ベテランの語りを常に聞くことで、重要な「間」がわかってくる。三味線の微妙な音の違いも、師匠の音を聞くと「なるほど」と思う。そして公演を重ねることで、自身も作品をつかんでいきます。
  「太夫にそぐわない、語りにそぐわない三味線は弾いちゃいけない」と言う清二郎さん。この場面を今日はたっぷり聞かせるな、と感ずれば三味線も粘ってみる。さらっと演じるならこちらも、と臨機応変さが求められます。
  単なる伴奏ではなく、いかに「浄瑠璃を弾く」=太夫と息を合わせて作品の心を音に込め、聞く人の気持ちを動かすか―三味線の力量が求められるところです。

性根をつかまねば 人形は遣えない

人形の構造

 首(人形の頭部)と右手を操る主遣い、左手と小道具の出し入れを担当する左遣い、足を遣う足遣い―三者が心を一つにして動かすことで、人形は命を得て動き出します。文楽人形の動きの高度さは、この三人遣いが考案されたことで生まれました。
  桐竹勘十郎さんは師匠・吉田簑助さんの足遣い・左遣いを長年務めた後、2003年に三代目勘十郎を襲名しました。世襲制のない文楽の世界では、実力を認められなければ父祖の名でも継ぐことはできません。
  主遣いになるまでには足10年・左10年といわれるほど、長く厳しい修行時代があります。が、主遣いになってからもまだまだ、さらに上を目指しての精進が続きます。
  「一番難しいのは気持ちの中で芝居が、人物ができてるかどうか。ちゃんと人物の性根(性格や経歴、立場等を反映した人物像)、役柄の性根をとらえているかどうかですね。居心を持った役者としての部分と、技術者の部分を同時にずーっとレベルを上げていかないと、人形は遣えない」
  ちょっと動かすだけで客席の隅々まで、ハッと何かが伝わる―それが勘十郎さんの考える「一流の人形遣い」です。

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